社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

ナムディン農業高校のカリキュラム農業の基本理念

学校全体の共有のために

 

ナムディン農業高校の「農業と環境授業」概要

 

ナムディン農業高校は、「農業と環境」科目を重視しています。それは、安全な食ばかりではなく、農業は、エネルギーや工業の循環の原料にもなるからです。また、水田は、水害の予防にもなります。農業や林業は自然環境の保全になります。農業は教育にも大きな役割を果たします。そして、人間の心をいやします。また、農業は観光にもなります。これらの課題は、農村住民だけでできるものではありません。都市住民の協力が必要です。

 「農業と環境」は、農業を総合的に捉えるための科目です。この科目は、1年から3年まで学びます。

 週4回の授業で、連続して90分授業をします。授業の方法は、体験や実験を重視します。体を動かして、生徒たちが議論をして楽しく学びます。それは、ひとりひとりが興味をもって、考えさせる授業です。

 生徒の今までの体験や地域の調査を取り入れて、座学中心ではありません。座学も映像などを入れて、視聴覚の教育方法を使います。

 授業では、地域との交流をします。また、日本の高校生とオンライン交流をします。日本の大学、で環境農業に取り組んでいる大学とも交流します。

 

1年生の授業

 

(1)堆肥づくりと炭づくり

 

 農業にとって土づくりは極めて大切なことです。1年生のときから堆肥づくりをします。堆肥づくりは、生徒たちが作業体験をします。体を動かして、堆肥になることの変化を観察します。温度測定、堆肥の色、臭みの変化を、それを記録します。

 堆肥づくりのなかで、熱がでることやガスがでることを観察します。将来的にバイオマスエネルギーの可能性を考えさせていくのです。微生物のすごい力を考えさせる授業にもなります。

 日本で利用されている家畜糞用からのバイオマスエネルギーや焼酎かす利用したバイオマスエネルギーなどを映像で紹介していきます。農村がエネルギーの基地になっていく可能性を生徒たちに考えさせていくのです。

 また稲わらが利用されずに燃やされている現状がベトナムにはあります。稲わらを有効利用するため、クン炭づくりを1年のときに体験します。堆肥づくりとクン炭づくりは、汗をかきながら目にみえる形で生徒たちが成果を実感できる授業にします。堆肥づくりとクン炭によって、農業高校内の畑や庭の花壇を整備をして、学校全体を野菜や草花、果樹に覆われた農業高校にします。それらを授業のなかで位置づけします。

 

(2)地域の環境や農業・農村の矛盾の課題を調べる学習・プロジェクト学習

 

 この単元では、地域にある環境問題を自由に調べていきます。ゴミはちらばっていないか。どんなことでもいいので、生徒たちに書いてもらって、みんなで地域の環境問題を考えていくのです。

 ナムディン地方は、戦争と経済封鎖という昔の厳しい生活がありました。そのなかで、自給自足をせざるをえない状況でした。栄養も十分に取れないなかで、どうやって健康を守り、エネルギーも自分たちでまかなったのか。

 考えられたのが、VAC運動でした。ベトナムの人々にとって、苦しい思い出でもありました。その経験を現代に新しい持続な可能な循環社会の未来に向かって、新しく経済発展のなかで創造する可能性が必要です。

 家の庭に薬草を植え、池をつくり、豚や鶏を飼い、その家畜の糞用を集めて、台所のバイオマスエネルギーに利用したのです。ナムディンでは、その跡が残っています。現代的にどう考えるのか。薬草はどんな種類を植えたのか。みんなで考えてみましょう。

 これらのことが、現代に役にたつものはないか。その考えを現代に発展させて応用できることはないか。ベトナムナムディンの果樹や農作物、家畜、農産物加工品なども調べてみましょう。

 ベトナムでは、はすの実の芯が睡眠効果によいといわれて、眠れないときに、お茶などに利用されています。ベトナムの農村は、バイオマス発電、水路発電、風力発電太陽光発電など自然エネルギー利用可能性が大いにあります。

 地域の農業の発展を考えるには、ベトナムの先進地の事例を調べてみましょう。また、世界のすぐれた事例を調べてみましょう。

 ひとつの日本の事例を紹介しましょう。日本の霧島酒造は、さつまいもから焼酎をつくり、その残った焼酎粕(しょうちゅうかす)を集めて、バイオマス発電をしています。2000世帯に電力を供給できる能力を創出しています。

 そして、出来た堆肥を農家に戻しています。この会社は、日本一の焼酎工場に発展しているのです。近くの高千穂牧場は、観光農園として、発展していますが、年間150万人が訪れるほどになっていますが、エネルギーは、そこでの牛の糞用からの発電でまかなっています。霧島山麓では集落の単位で傾斜を利用しての小さな水路発電所をつくっています。

 ベトナムの農村の大いなる発展の可能性をベトナムの現実のなかからの問題発見する必要があります。生徒たちの関心からプロジェクト学習を進めていくのです。

 

農業と環境の2年生

科学的思考と農業

 

(3)空気と科学的思考

 

 農業と環境の授業では、楽しく学ぶことを継続します。2年生では、科学的な思考を重視します。

 簡単な科学の遊び体験をします。科学的な思考を出発点にします。教師は、それぞれ工夫してみましょう。次の授業の方法は、ひとつの重要な事例です。

 空気は目にみえません。ものづくりを通しての科学的思考の実験です。見えない空気は、なにもないのではありません。なにかがあります。紙飛行機をつくってみて、実際に空気の存在を考えさせてみましょう。紙飛行機をつくって飛ばす。よく飛ぶのと飛ばないことを体験させるのです。空気の動きのことを考えて精巧につくる意義を考えさせます。厚紙で筒をつくり投げてみよう。回転をもって飛んでいくとまっすぐに飛んでいくのは、なぜか。

 厚紙から竹とんぼをつくってみよう。竹とんぼが上に舞い上がってよく飛ぶのと、竹とんぼが飛ばないのとを、比較して考えてみよう。ひねりをいれないと、なぜ飛ばないのか。ひねっても竹とんぼがとばなかったのは、なぜか。よく飛んだのと飛ばなかったのを考えてみよう。さらに、竹トンボをストローにさして、ビーズを入れて回転させてみよう。ここでは、生徒たちに空気とエネルギー関係を考えさせるのです。

 人々が生きて行くには、エネルギーは大切な要素です。自然にあるエネルギーを人間は上手に使ってきました。水車や風車が、その例です。火を使ってきたのも熱エネルギーとして欠かせないものでした。

 現代は、自然から多くのエネルギーを人間はもらっています。農産物も太陽のエネルギーの吸収からです。空気の回転から電気を生み出すこともできます。それは、風力発電です。

 風の力によって、プロペラを回転させて、そのエネルギーを発動機に伝えて電気をつくるのです。発電のしくみを考えてみよう。回転させてエネルギーをつくり、電気をつくることをいろいろと実験してみよう。手でまわすこと、自転車、水の力で、それぞれ身近な方法で実験してみよう。

 人間は息をすって生きています。その息で重要なのは、酸素です。そして、必要でない炭酸ガスをはき出すのです。人間は酸素をすってブドウ糖を燃やしてエネルギーをつくるのです。ブドウ糖は食べ物からつくられます。人間の体が動くには、いろいろの栄養素が必要になります。毎日の活動のエネルギーにとって大切なのは、ブドウ糖です。

 

(4)農業と気象

 

 気象などの自然条件は、農業にとって重要な要素です。熱帯と温帯なでは、農産物も異なります。ベトナムではマンゴーやバナナは自然状態でできます。日本では自然状態では難しい。沖縄などの暖かい一部の地域を除き、寒くてつくれません。太陽のエネルギーはすばらしいものがあります。ベトナムは気候的に恵まれています。

 雨の多い地域、雨の少ない地域、水が流れている地域と、水と農業は密接な関係で、大切です。雨はどうして降るのでしょうか。雨の降らない地域はどうしてなのでしょうか。晴れた日、曇った日、雨の日と、天気は、変わっていきます。なぜ天気は変わっていくのでしょうか。

 ところで、雲はなんでしょうか。雲はどうしてできるのでしょうか。雨も激しく降るときと、少ししかふらないときがあります。なぜでしょうか。台風のときは、どうして雨が強くふるのでしょうか。天気予報で、気圧のことがでてきますが、それは、どういうことなのでしょうか。大雨がふれば水害も危険になります。

 自然状態ではなく、人工的に農業をするのをどう考えますか。日本でマンゴーを育てるには、ビニールハウスで囲み、灯油などで暖房を利用します。このようなことをどう思いますか。世界が地球温暖化で悩んでいるときに、自然条件に反して、灯油を使って熱帯農業をやっているのです。

 日本人がマンゴーを食べたければ、日本で作らなくて、ベトナムで日本人の口にあったマンゴーをつくればよいと思いますが、みなさんはどう考えますか。

 地球にやさしい農業を世界中でするためには、それぞれの自然状態に適した農業の振興をすれば世界の気候温暖化防止に貢献します。

 熱帯の森林も大規模な伐採がされて、地球環境を破壊しているのです。それぞれの国の地域で木材を調達すればよいのですが、熱帯の木材は安く購入できるということです。日本では、昔から植林してきた杉やヒノキが管理されずに、荒れている状況です。ベトナムの木材や建築材はどうなっているのでしょうか。

 日本では植林をして、それを大切にして、自然を守って、水害などの災害を防止することが弱くなっています。

 今の世界的規模で起きている地球温暖化、異常気象に真剣に目をむけながら、農業や林業のことを考える時期です。ベトナムは、竹の国です。さまざま熱帯果樹もあります。それを工業的な原料に利用することも可能と思います。林業や果樹が発展して、農業が栄え、また、沿岸のプランクトンが繁殖して、漁業も発展していくという自然循環の地域循環経済が可能な国です。

 工業も地域の農産物の発展からの工業の原料という発想が必要なのです。現在の科学技術の発展は、それが可能な時代です。石油ではなく、鉱物資源に依存するのではなく、農産物や林業から工業原料をつくりだす、セルロースナノテク技術や自然エネルギーが確立されていく時代です。

 生徒たちに考えさせるには、難しい課題だと思いますので、映像などを使ってわかりやすく問題提起することが求められています。また、日常的な天気との関係、水害や台風との関係などと結びつけて、気象と農業を考えさせる工夫が必要です。

 

(5)水と農業 

 

 農業は水がなければできません。水やりは重要な農業の仕事です。作物の生育の状態から水のやり方が違います。温度と湿度によっても農産物の成長も違います。水を多くやりすぎると根が枯れます。水やりの時間も大切です。日中ではなく、午前中と夕方です。なぜか。水と農業について、生徒たちに考えさせましょう。

 また、水をかけるやりかたも、頭上かん水、枕元かん水、うねかん水があります。植物の生長と水のやり方との関係は大切なことです。自然の状態から人間が植物を育てるには、いろいろと気をつかう必要があるのです。水は植物や動物の命の源なのです。人間にとって、水を大切にすることは極めて大切なのです。

 地球上では、水が豊富な地域は限定されています。水を貯めておくには、森林、湖、ため池などがあります。森林を伐採すれば水を貯める機能もなくなり、気候も変わって行きます。また、人々は水をめぐる権利や争いがありました。水は気候の問題や地形と深く関わっているのです。

 ベトナムではどうでしょうか。水はいいことばかりでなく、大雨が降れば水害が起きるのです。ベトナムの歴史は水との戦いです。紅川デルタは、現在は、堤防や用水路が整備されています。このための管理は大変なことです。水の管理が地域でどのようにされているのか。そして、水をめぐっての人々のつながりはどうであるのかを調べてみましょう。

 

(6)農業と種子について

 

 農業にとって、種子は出発点です。この問題を深く実感をもって考えていくうえで、種子の遊びをとおして、様々な種子の多様な性質について考えさせることは大切です。それには、生徒たちが楽しみ、不思議に思いながら理解していくことが必要です。

 種子は単純に地上に落ちて、発芽するということではありません。風に乗って遠くに飛んでいくものと、動物の体にくっついて移動していくものと、果実が鳥の餌になって、食べられてフンからでていくものと様々です。

 発芽(芽を出す)には、水、温度、酸素が必要です。水をやりすぎると酸素が不足して、発芽が悪くなります。光があたると発芽しやすい種子(好光性・こうこうせい種子)と反対に、光があたると発芽しにくい種子(嫌光性・けんこうせい)があります。

  好光性種子は、ニンジン、レタスなど。反対に嫌光性種子は、ダイコン、トマト、スイカなどです。明発芽種子は、土をかける(覆土・ふくど)のときに多すぎると発芽が悪くなります。薄く土をかける必要があります。種まきは、一カ所に数粒まく方法のてんまき(ダイコン)、うねに一列にまくすじまき方法(ニンジン)、うね全体にばらまく方法(たまねぎ)などがあります。種子によって種のまき方を異なってくるのです。

 直接に畑に種子をまいた直(じか)栽培では、間引きをします。生育不良、徒長、葉の奇形、虫食いなどの苗をぬいて、間隔を適切にします。

 畑とは別のところに種をまいて、苗(なえ)を育てる方法を育苗(いくびょう)といいます。苗を育てる場所を苗床(なえとこ)といいます。育苗には、トマト、キュウリの果菜類、キャベツ、レタスなどの葉菜類などで行われます。

 畑に苗を植えることを定植(ていしょく)といいます。植え付けの間隔、受付の時期が大切になってきます。直接に畑に種子をまかずに、育苗の利点はどこにあるのでしょうか。考えてみましょう。

 種子は、寿命があります。種類によって短いもの、長いものがあります。種子の保存は低温と乾燥条件です。保存状態が悪いと種子の寿命は短くなります。

 最近は加工した種子がたくさんあります。また、遺伝子組み換えの種子もあります。加工処理した種子がわかることは大切なことです。

 

(7)農業と土壌環境

 

 日本の水田のあぜにはヒガンバナという球根を植えて、花を咲かせます。なぜか。ベトナムの水田には畦に花を植えない。ここには、水田の秘密があるのです。生徒たちは、ベトナムの水田が粘土質であることを理解させることが求められます。土の構造の理解です。土も地域によって性質が異なるのです。粘土の割合で、土の性質を5つに区分しています。

 土がどれほど肥料分を維持できる能力があるのか。(保肥力)と水はけの関係を5段階に分けています。水はけと保肥力は逆の関係です。ベトナムのナムディンでは粘土質で肥料持ちはよいが水はけが悪いという関係です。

 これには、水田稲作に適した土地ということです。畑作にはむかない土地で、畑作をする場合には土を改良しなければなりません。

 土の性質という土性判定は、土を手で握って判定できます。握っても固まらない土は、砂土(さど)か砂壌土(さじょうど)です。すこし固まるがひびが入る土は、壌土(じょうど)か埴壌土(しょくじょうど)です。握って固まっている土は、埴土(しょくど)です。肥料のもちがよいこと(肥力・ひりょく)と水はけと両方よいのが壌土(じょうど)です。

 それぞれの地域の地形によって、土壌は異なります。日本の畑の多くは、黒ボク土といって、火山灰と腐植(ふしょく)を含んだ土です。日本の水田は、灰色低地土という排水のよい土層です。ベトナムとは大きく異なるのです。

 作物の生育に適した土壌は、土が団粒(だんりゅう)構造になっていることです。土づくりということで、堆肥や有機物を土の中にいれて、土壌にすきまをつくり、保水力、通気性、肥料養分を土に吸着させるようにするのです。

 単粒(たんりゅう)構造のかたい土は、通気性、透水性が悪く、作物がよく育ちません。土を掘り返すのは、土に空気を入れて、土をやわらかい状態にするためです。

 土には酸性からアルカリ性という性質をもっています。植物によって、酸性の度合いによって、異なってきます。土の酸度を表すPHを測定することによって、土の酸度を変えて、それぞれの作物の生育に適した土壌改良を行うのです。

 また、作物は同じ畑に同じ種類のものを続けて植えると連作障害が起こります。これは、同じ作物を植えると病害虫が発生しやすいのです。いわゆる連作障害(れんさくしょうがい)です。このため、輪作(りんさく)ということで、違う種類の作物を周期的に栽培するのです。

 作物の生長に、肥料は必ず必要です。基本的な肥料は、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)です。また、その他にたくさんの少ない量ですが、肥料が必要なのです。自然界には、これらの肥料要素をもっています。化学肥料は人工的に肥料をあたえることです。

 作物は茎、葉、根、花・生殖器官、頂芽(ちょうが)・側芽(そくが)があります。作物は光合成(こうごうせい)によって成長していきます。光がつよいほど光合成はさかんです。光合成によって炭水化物を合成します。葉は光合成の働きを活発にします。そこでは、酸素を出し、二酸化炭素を吸収します。

 そして、水分を蒸散(じょうさん)します。また、夜は呼吸が活発に、昼間つくった二酸化炭素を消費させます。養分や水分は、根から吸収するのです。この吸収の良さは、土の構造や土のなかのミミズなどの小動物、微生物の働きによっても異なってくるのです。

 生徒たちとナムディンの水田や畑地を歩いて、どのような土の性質なのかを確認して、花農家など畑作をしている農家の水はけの苦労や土壌改良の話を聞いてみよう。

 

(8)竹の生命力。

 

 食糧としてのタケノコ。竹製品づくり。竹のもっている自然循環の力を生徒たちに理解させるには、どのような方法がいいのか。ナムディンには、有名な竹製品加工の村があります。その村を紹介しながら竹の製品のもっている多様性について生徒たちに理解させていく。未来産業としてのプラスチックにかわる竹製品の可能性があります。タケノコ料理は多様です。たけのこのつけものなどもあります。

 

 

(9)昆虫・ミミズなどの小動物と有機農業

 

 日本の有機農業ではミミズは大活躍します。ミミズの活動で土のなかに空気を入れて、フンによって、微生物が繁殖して、土の有機質を増やしていくのです。微生物のなかには、農産物の成長にとって有益な根粒菌などがいます。空気中の窒素を作物が利用しやすいように根のまわりにたくさんつくのです。

 もぐらは田んぼの土手をくずすので、もぐらのきらいな彼岸花(ひがんばな)を植えるのです。小さな野ねずみもいたずらをします。ベトナムではどうですか。ミミズの繁殖を大切にする農業のやり方はあるのですか。また、どんなミミズがいるのですか。

 1年生のときに堆肥づくりをしましたが、食堂の残飯を有効に利用する堆肥づくりもあらたな挑戦です。微生物を有効に活躍できるためにミミズを使うのもひとつの方法です。

 小動物・昆虫・クモとダニには農業にとって有害な昆虫と有益なものがいます。有害というのは人間がかってに考えたものです。農業という人間の営みから、害虫という言葉を使います。自然界では有益に循環しているのです。植物を食べて生きているチョウやガの幼虫、バッタ、アブラムシ、カメムシは害虫になりますが、ハチやトンボ、カマキリ、テントウムシ、クモなどは肉食で害虫を食べます。まさに、害虫の天敵で、益虫になるのです。殺虫剤は、害虫も益虫も殺します。益虫を有効に使う生物農薬の工夫もされる時代です。

 作物には病気が発生します。菌類や細菌の微生物のいたずらです。さらに、小さな病原体であるウイルスが病気の原因になることがあります。病気の発生を防ぐには、作物が丈夫に育つようにする条件が必要です。病気に対して抵抗力をもたせるために、弱々しくそだっているのを処分したり、風通しをよくしたり、適正な養分をあたえたり、することなど。

 

農業と環境3 科学と応用

 

 (10)微生物と農業

 

 農業の環境ということから、未来への日本の社会のあり方を模索していくうえで、微生物とセルロースナノテクという視野から持続可能な地域循環経済を展望して、農業の積極的な科学の応用を展開していくことが求められています。農業からの人間生活と微生物について、基本的なことを理解して、微生物の種類と特徴を明らかにしていくのです。

 微生物の代謝酵素ということで、酵素の特性を明らかにして、好気的代謝ということでの発酵などを問題にしていく。

 ここで、微生物の観察を取り扱い、かびの分離と培養、酵母の分離と培養、細菌の分離と培養などを観察していきます。そして、微生物利用の発展を考えます。微生物の利用としての検査の実践もしてみます。

 

(11)農業からの工業化と持続可能地域循環経済

 

 セルロースナノテクという科学技術の発展によって、植物の繊維質をナノテク技術によって、新たな工業素材として注目される時代です。また、重金属や水質汚濁、粉塵、空調設備など人間の暮らしの環境としてのフイルター技術は大きな社会的課題となっています。

 このフイルターに天然繊維が積極的に利用されるような研究も進んでいます。今まで大量に捨てられていたバナナの葉やヤシがフイルターとして利用される時代がくるというのです。

 さらに、木材や竹、サトウキビなどの植物のもつ自然循環性を工業素材として利用できる時代です。石油や鉱物資源の有限性から植物の循環性から無限に循環していく素材形成が可能になっているのです。この現実を生徒たちに理解できるようにしていくには、どうしたら可能であるのか。やさしく楽しく教える科学教育の課題です。

 

さいごに

 本概要は、外国人労働者の農業の特定技能試験内容も加味して、農業と環境という科目から未来への持続可能な地域循環の経済発展をめざす科学的な基礎教育のために、考えられたものです。

 また、学年ごとのテーマ課題も授業の実践で変えられていくものです。さらに、生徒の問題関心、地域の課題に即して、授業内容変えられていくものです。決して、固定的に考えるものではありません。

 

 農産物加工と食品科学の授業概要

 

 この授業はナムディンの農産物や資源を利用して、食品製造や食品科学を学びます。授業は、「農業と環境」と結びついています。基本的な理念は、持続可能性の循環経済を目標にして、安心と安全の食生活です。食品の機能としての栄養、安全性、嗜好、健康維持・病気の予防、食品の腐敗と発酵などの微生物、衛生管理などを学びます。

 そして、農産物加工では、食品の機能を活かして、地域の特産物形成です。このためには、食品科学の基礎を学び、生徒の創造性を発揮させる教育をすることです。 

 ナムディンは、紅河デルタとして、昔から稲作が盛んな地域でした。水田稲作に適した地域です。昔から、米を利用した農産物加工がありました。フォーなど、米粉から作られた農産物加工品があります。

 植物は、花が咲き、果樹のようにおいしい実ができて、種子ができます。植物の構造は、花が咲き、種ができる部分と、葉の部分と茎の部分、根の部分と大きく分かれます。葉は、太陽の光によるエネルギーをつくるところです。この働きを光合成(こうごうせい)と言います。

 そこでは、デンプンなどの養分をつくります。このデンプンはどこにたくわえられるのでしょうか。茎は、養分と水をとおして、根は土壌の栄養分や水を吸収するのです。この植物の働きの基本を生徒に理解してもらいながら農産物加工を考えて行きます。

 人間は植物のどの部分を加工して食べるのでしょうか。それぞれ農産物によって、違いがあります。また、人間は、暮らしに植物をどのように利用するのでしょうか。絹のように、桑を育て、葉を幼虫に食べさせて繭(まゆ)をとり、衣類の材料に使います。昔から、絹は高級品でした。非常に高く売れたのです。

 お米は植物のどの部分でしょうか。はすはどの部分を食べるのでしょうか。さつまいもはどの部分を食べるのでしょうか。

 米粉を利用したパンづくりがナムディン農業高校では1年生からはじめます。また、お菓子やケーキづくりもします。食品加工の楽しさをまずは自らの体験を通して感じてもらいます。

 ナムディン地方では大豆とピーナツをつくっていますが、それを利用してのピーナツ豆腐づくりもひとつの挑戦です。学校として、地域の特産物づくりという考えから、高く売れる加工品をどうつくりあげていくのかを工夫します。ナムディンには、たくさんの農産物や自然の植物の宝があります。

 ところで、ナムディン地方は、昔から農村の手工業がありました。農家は、農産物をつくることと手工業を兼ねていたのです。そのひとつの例として、絹の生産がありました。養蚕業から生糸生産、絹織物です。

 さらに、竹細工、鋳造加工、木工品などがありました。そして、食品加工は、ピーナツのお菓子、つけもの、ヌクマムの調味料がありました。海岸近くでは、栄養分のある塩をつくりの塩田がありました。

 現代に、これらの伝統的な農村工業をどう発展させていくかは大きな課題です。食品・農産物の加工は、農村の工業で大きな役割を果たします。

 農村の工業は、経済の発展にいかに貢献するのでしょうか。現代は、自給自足の生活ではなく、貨幣経済のなかで、現金収入を得て、所得向上が求められるのです。食品加工の授業展開には、ビジネスの考えが大切です。どのようにしたら売れるのか、何が売れるのかなどの調査も大切です。消費者の意識を知ることも必要です。また、デザインや美的なセンスも、求められます。

 

1年生の課題 

(1)地域の実情を知り、課題を考えて、農産物加工に挑戦してみよう。

 

 1年生の授業は、まずナムディン地方の農産物加工の現実をみることです。このために、まずは、調査をすることです。そして、農家の収入向上を考えることです。また、健康や安心と安全な生活のために、どのようにしたらよいのかを考えることです。

 この考えから農産物の加工に挑戦してみることです。自分自身でおいしい米粉パンやケーキ、ピーナツバター、ピーナツ豆腐などの農産物加工をつくって、その楽しさを体験することからはじめることです。農産物加工の仕事をすることは楽しみややりがいがあります。

 農産物加工の地域調査と自分たち自身で地域を豊かにするために未来への問題探求の意識を深める学習をしていきます。ナムディン地方における農産物加工の問題はどこにあるのか。どうやったらよいのかということから生徒が調査して、生徒自身が問題を発見することです。

 

(2)米粉パンづくりの挑戦

 ナムディンでは、多くの農家が稲作生産をしている現実から、農産物加工にとって、米粉を利用する加工品は大きな意味をもっています。フォーなどがすでにありますが、米粉パンは、新たな地域の挑戦です。まずは、小麦粉からのパンづくりを学びます。

 

(3)お菓子づくりとケーキづくりの挑戦

 生徒たちは街でお菓子やケーキを食べるのを楽しみにしていると思います。そのおいしいお菓子やケーキを自分たちでつくるということは、楽しみがより大きくなっていくのです。

 そして、どうしたらおいしくなるのか。みんなに喜ばれるお菓子やケーキをつくることができるのか。さらに、お店で売るには、大きな挑戦が必要です。

 

2年生の授業 

農産物加工品を売ってみて、新しく科学的知識をもっての農産物加工品の挑戦

 

(3)ピーナツ豆腐づくりの挑戦と自分たちで売ってみることの実践 

ナムディンではピーナツのお菓子作りが特産品として、つくられています。さらに、豆腐づくりにピーナツを入れての特産づくりはどうなのか。生徒たちが地域の農産物からの加工を積極的に行って、高く売れる農産物にするには、工夫や加工が必要なのです。これには、農業ビジネスの感覚を身につけていくことも大きな目標です。

 

(4)スーパーに行って、食品加工のどんなものが売っているのか調べてみよう。

 ナムディンの農産物加工食品とベトナムでの食品加工品、外国からの食品加工食品などを書き出して、ナムディン地方やベトナムでの自給的な食品加工を調べてみよう。

 どうしたら、自給の食品加工が高めていくことができるのか。みんなで考えてみよう。ベトナムにない農産物がスーパーなどで売っているのはどうしてなのか。

 有機農業の野菜が高くても売れるのはどうしてか。日本のリンゴやお米などがスーパーにおいてあるのはどうしてなのか。

 

(5)地域の果樹などを利用してのジャムの製造                                   

 ベトナムには豊富な果物がたくさんあります。ジュースにしたり、ジャムにしたりする食品加工の役割が大いに期待されるのです。果物を食品加工することによって、付加価値をつけて、生もの果物を長持ちし、販路も拡大することができるのです。ここでもどうしたら消費者に喜ばれるジュースやジャムをつくることができるのかということです。

 

(6)発酵食品の挑戦

 ベトナムでは、どんな発酵食品があるのか。代表的には、ヌクマムがあります。ヌクマムは魚醤です。このつくる過程もベトナムの伝統的な調味料ですので、じっくりと見学をして発酵のことをヌクマムから学んでほしいと思います。

 米焼酎の製造過程も発酵が大切な役割をしています。ベトナムでの焼酎の銘柄づくりもこれから大きな課題になっていくのです。現在は、それぞれのコミュニティティの範囲で焼酎がつくられています。

 しかし、まだ銘柄としての全国的な確立がされていません。ベトナムの酒造として、世界に売り込んでいくことは嗜好品として大切なことです。それぞれの集落段階の地域ごとにつけものがあると思います。これも発酵食品です。

 世界の各地に発酵食品があります。それぞれの国ごとに独自の文化をもった発酵食品を生み出しているのです。

 

(7)発酵食品の原理を知って、発酵食品づくりの挑戦

 

 発酵食品は、人類が考え出した微生物によるうま味の秘密です。発酵食品は、それぞれの地域風土の文化です。発酵食品は、食料の保存から生まれた食品の技術なのです。それぞれの地域の気候や土地条件に大きく左右された食の文化です。それは、微生物をたくみに利用して、発酵と腐敗を区別したのです。

 発酵食品は、人々の栄養素を高めたのです。また、発酵によって、うま味を高めたのです。人々の食生活にとって、発酵食品はなくてはならないものです。食糧の保存方法として、最初にこころみたのは乾燥です。干して乾燥させる方法と、いぶして燻製状態で保存する方法とが原始古代から行ってきたのです。そして、発酵の食品加工が生まれて行きます。腐敗過程のなかで人々は、体験的に発酵の方法を得ていったのです。

 塩分によって食品を保存する方法があります。塩づけにする方法です。微生物の繁殖をおさえるために塩分を利用するのです。魚介類の塩づけ、ハムやソーセージなどの加工方法もあります。

 壺に糠入れて野菜を保存して、通気性を制限して、乳酸菌を繁殖させて、pHを低下させ、酸性の力で雑菌を死滅させる方法です。発酵食品では乳酸菌が大きな役割を果たすのです。ヨーグルトがその典型です。

 炭水化物の糖分は、微生物に分解されると、乳酸や酢酸などの有機酸を生成して、pHが低下するのです。タンパク質の成分は、微生物の分解によって、pHが上昇して、腐敗菌や病原菌が繁殖します。猛烈にくさくなるのは、pHの上昇からです。乳酸菌を繁殖させて、pHを4程度の酸性にすることが長期保存のコツになるのです。

 また、発酵によって、タンパク質を分解させてアミノ酸を遊離することによって、うま味がでるのも重要なことです。味の素になっているグルタミン酸もそのひとつであります。

 肉を食べなくても豆を食べれば貴重なタンパク質を得ることができて、栄養失調にならないことを人類は知ったのです。大豆は貴重なタンパク質を食糧ですが、生で食べると消化不良になります。豆腐や納豆などの工夫をして食べるようになったのです。最近は、大豆をハンバークのようにして、肉とかわらいようにする食品加工が生まれています。

 

(8)食品の機能としての栄養、嗜好、健康維持、病気との関係、

 

 食べることは人間の生命維持機能にとって基本的に必要なことです。栄養は健康にとって大切です。生活習慣予防も食生活からです。健康維持から食品のもつ栄養要素が重要なのです。病気になれば、食生活に大いに気を使うようになります。

 さらに、食べることは、嗜好と関係もち、楽しみのひとつです。そこでは、人間の絆が生まれて、文化的充実がうまれていくものです。

 

3年生 

(9)農産物加工と食品科学

 

 3年生は食品・農産物加工の科学から、それを応用することを学んで行きます。ここでは、発酵食品である酢やヌクマムなどの微生物の力による発酵商品を考えて、実際に応用してみることです。また、食品は腐敗しますし、そのために保存方法は大切な課題になります。

 

(10)微生物と発酵食品の科学

 

 微生物は好気性菌と嫌気性菌とに分かれます。食酢、味噌、醤油などの微生物は好気性菌です。酸素を用いての反応は、エネルギー効率が高く、生育が旺盛で反応熱によって温度が上昇します。有機物が完全に分解されて、二酸化炭素と水に無機物に交換されるのです。

 一方で、 酸素がなくても生育できる微生物は嫌気性菌とよばれます。乳酸菌やアルコール発酵は嫌気性菌です。この発酵する微生物は通性嫌気性菌です。嫌気性菌の反応は、エネルギー効率が悪いため、さまざまな有機物が残留して、蓄積するのです。自然界の水底や土壌中は酸素が使い果たされて、嫌気的環境となるのです。そして、嫌気的な発酵に切り替えるのです。

 堆肥は微生物を繁殖させてつくられる肥料です。多様な微生物が働き、変化しながら堆肥となるのです。堆肥は主として好気性菌を働かせるために、通気が大切です。60度近くなる発酵の熱によって、ウイルス、害虫の卵、雑草の種などの有害な生物は死滅するのです。

 堆肥には、カリウムやリン酸などのミネラルが含み、難分解性の腐植質によって土壌改良になるのです。不適切な材料を混入すると、通気性が悪くなり、悪臭を放つようになるのです。

 

(11)食品の腐敗と保存

 

 果物、野菜、鮮魚、精肉などの生鮮食品は、腐敗しやすく、品質の劣化が早いのが特徴です。このために、貯蔵が難しい状況で、様々な工夫がされてきたのです。食品にとっての衛生管理が重要なのです。食中毒の発生を防止していくことが常に求められて、その保存の方法も大切なのです。これらの問題を科学的に学ぶことが求められるのです。

 人類は古代から燻製や干して乾燥させる方法で生鮮食品の保存がとられてきました。近代になって、缶詰の発達によって、生鮮を活かした保存方法が可能になったのです。そして、近年では冷凍野菜の技術で収穫したものを瞬時にカット加工保存して、新鮮のまま輸送することが可能になりました。これらの科学的基礎を学ぶことも大切な課題です。

 

(12)食品化学       

    

 食品の化学的反応を対象にする学問で、肉、レタス、牛乳、ビール、野菜などの食物における炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル、酵素などの成分に、食品添加物、香料、着色料を加えて、食品加工技術を用いて製品を変化させるための学問です。食品添加物や着色料は、人工的に食品を変化させることで、人体の影響でも大きな関係をもつものです。

 

(13) 食品・農産物加工だけではなく、農業と環境も含め、それぞれでグループをつくって卒業のための課題研究をしてみよう