社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

中央教育審議会「人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興策の答申案」ーパブリックコメントー

  
 中央教育審議会「人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興策の答申案」ーパブリックコメント
              神田 嘉延
             
 人口減少時代の地域づくりと社会教育の振興策答申の案をだしたことは、社会教育の地域課題解決学習を充実していくことで大いに意味をもっていると思う。しかし、社会教育の奨励の原則である学問の自由、自主性、主体性、相互性、協働性が失われていく危惧が答申案の内容にある。
 
  人口減少という地域課題学習を考えていくうえで、住民の主体的な参画のもとに新しい地域づくりを進める学習や活動のあり方を深めていくうえで、今回の答申は一定の意味をもっていると考える。
 しかし、答申案では、社会教育の専門職の役割として、地域づくりの戦略としての社会教育計画の策定に取り組むことがでていない。専門による学問的な視点からの生涯学習社会の実現が提起されているが、そこにおける市町村自治体の役割、長期的に地域づくりを支えていく社会教育計画や社会教育の専門職員の役割がでていない。
 
  また、地域づくりにおける社会教育の意義を強調しても住民まかせで、市町村の自治体や社会教育専門職の担い手の充実と配置の増員による施策がなければ十分に機能しない。どのようにして住民主体の参画による地域づくりをしていくかは、社会教育専門職の仕事である。教師のいない学校などなりたたないと同じように、市町村自治体の地域振興による社会教育専門職の充実、増員なくして、社会教育による地域づくりはないのである。
 
  地域における学びということで地域学校協働活動が提起されているが、地域学校協働活動は、学校での学びを住民の暮らしや労働、地域の伝統文化から子ども達、青年達が地域で生きる夢をもたせるこで必要なことある。その際に、重要なことは、地域の大人達が地域づくりの視点をもって学校教育活動に積極的に参画し、地域で生きる必要な能力を展望しての社会教育活動が大切である。

 答申案は、社会教育行政のあり方として、首長部局やNPO等の地域団体と連携・協働していく大切さを提起しているが、このことは、地域づくりと社会教育の施策を考えていくうえで基本的なことである。しかし、なぜ、社会教育行政が壁をつくり自己完結していくのか、その問題点を探っていくことが重要である。
 
 基本的に地域課題に基づいた社会教育計画が市町村自治体でつくられていないことが大きな問題である。ここには、首長部局の地域振興計画での社会教育の役割が十分に位置づいてなく、社会教育専門職員や社会教育施設の役割が不明確なことが起因している。

 地域の学びを活性化させる専門性の人材の役割を答申案では強調しているが、これはもっともなことである。この地域の学びの専門的人材をどのように理解していくのか。地域の学習内容が多様化していることで、関係者の間をつないだり、学習の場における調整役割を答申案は提起しているが、果たして、それだけなのか。そのことは否定しないが、大切なことが欠落しているのではないか。

 地域課題解決学習の社会教育主事の専門性は、首長部局と連携して、地域づくりのための社会教育計画の策定に主導的役割を果たし、その計画のもとに学びのオーガナイザーの役割を果たすべきである。地域課題解決学習のための社会教育計画なくして地域づくりの人材養成のオーガナイザーはないのである。

 社会教育計画は、首長部局との連携が不可欠である。この際に、社会教育の奨励の個人の要望や社会の要請は、学問の自由・教育の自由のもとに、自主的、主体的に行われるもので、社会的要請も地域での相互学習、協働学習が尊重されることによって、本来の役割を果たすものである。

 社会教育は行政の不当な支配に服することではなく、学問の自由・教育の自由のもとに、住民の学習権の保障から人間らしく生きるための人格の完成をめざすものである。社会教育はとりわけ、住民の自発性と興味関心によって成り立っていくものであり、組織的継続的に学習を進めいくには、社会教育専門職の創意工夫が求められているのである。
 
 そこでは、文化や科学・技術の継承ばかりではなく、自発的で、創造的なものでなければならない。人口減少時代の地域課題解決学習は、とりわけて、自発的、創造的な側面が求められている。学問の自由、教育の自由、自主性、相互性、協働による学習なくして、創造性は生まれない。

 社会教育施設の首長部局の管理問題も、この問題を基本にすべきである。目先の特定経済事業施策に従属するために利用されるものではない。地域の発展は、学問の自由尊重によって、地域の豊かな文化の発見であり、それらを創造して、持続可能な地域社会を基本にすえることである。
 まちづくり行政や観光行政と社会教育施設との連携は、学問の自由尊重による地域文化の豊かさの発信が求められている。答申案は、社会教育における学問の自由、創造性と、自主性と主体的な参画をもっと強調すべきである。また、社会教育専門職の地域課題学習のための充実と増員が不可欠であることを答申案は欠落している。

 

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