社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

公民館・コミュニティセンター職員の専門性と養成・研修―社会教育士の創設を見すえてー

公民館・コミュニティセンター職員の専門性と養成・研修―社会教育士の創設を見すえてー
2019年6月29日から30日日本社会教育学会九州・沖縄地区集会
 
 文部科学省は、平成30年9月に社会教育主事の省令改正を2020年4月1日施行の通達で、社会教育専門士の創設を打ち出しています。社会教育主事に期待されることは、地域の多様な専門性を有する人材や資源をうまく結びつけて地域の力を引き出すことであるとしています。
 社会教育専門士は、地域活動の組織化支援を行い、地域住民の学習ニーズに応えていくこと、学習者の地域社会への参画意欲を喚起することです。そして、学習者の学習成果を地域課題によるまちづくりをしていくことです。また、地域学校協働活動につなげていくことを考えています。ここでは、地域づくりとの関係の学習が強くあるのです。
地域づくりの学習ということは、住民の学習権保障に結びつくかということが大切なのです。行政の施策の遂行のために、地域課題として学習を設定して、行政を効率的に住民の参加動員のためにしていくのではないのです。住民自身の人間らしく生きていくために、発達の権利から学びが保障されるという視点が重要なのです。

人間らしく生きていくたの発達保障のための学習権

学習権なしに人間の発達はないのです。生存のための学習権を基本にしての地域の課題学習があるのです。「教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としてしなければならない」。(世界人権宣言)
万人のための教育に関する世界宣言では、基本的な学習ニーズとは、「人間が生存し、その能力を全面的に発達させ、尊厳をもって暮らしかつ働き、発達に全面的に参加し、その生活の質を向上させ、充分な情報を得たうえで決定を行い、かつ学習を継続することができるために必要とされる必須の学習手段、および基本的な学習内容から構成される」。
学習ニーズを充足していくためには、すべての人々の人間らしい生き方のエンパワーメントです。万人のための教育宣言では、社会的正義の前進の学びを次のようにのべています。
「社会的正義の大義を前進させること、環境保護を達成すること、共通に受け入れられた人間的価値および人権が支持されることを確保しつつ、自己のものとは異なる社会的、政治的および宗教的制度に寛容になること、および、相互依存的な世界において国際平和と連帯のために」。
地域の学習課題を考えていくうえで、世界人権宣言の教育権や万人のための教育宣言の人類普遍的理念を踏まえての設定が大切なのです。
 
九州地区学会の報告は、4つありました。最初に、九州・沖縄地区全体の社会教育関連職員の養成・研修について、統計的に上野景三氏が報告しました。上野氏の問題意識は、社会教育士の制度が省令によって、2020年から実施されますが、それに対応して、市町村で、その専門性を認めての採用や配置があるのかということでした。
公民館・コミュニティセンター職員の任用にあたって、その専門性を認めて実際は、配置されてひとつである社会教育士の資格を任用の条件にしていなくても、採用後に専門職としての力量を形成しているのかという問題提起でした。
全国的に公民館数や公民館職員数が、著しく減少している状況で、非常勤職員が増大して、社会教育職員の有資格者の占める率も極めて少なくなっているという実態の分析でした。実際は公民館の専門職員も配置されていないことから、公民館のことが知らないものが担っている実態ということでした。また、公民館の職員の専門性を高めていく研修も保障されていないということです。
なぜ、市町村段階での公民館などで、社会教育職員の非常勤依存や専門性が現実に認められていないのか。その構造的な問題も含めて掘り下げていく研究課題があるのです。大学での社会教育専門職の養成を行っても、採用する側が、その専門性をないがしろにして、それを条件にして、採用していない現状では、社会教育士の創設をしても、その意味が発揮されないということです。
 
第2の報告は、佐賀市における公民館職員の相互学習と力量形成」でした。この報告は、佐賀市西与賀公民館の田中真由美氏でした。佐賀市は、32の公民館数で、公民館主事67名で非常勤の専門職主事33名、嘱託10名、常勤主事24名です。2012年に地域コミュニティ施策をすすめるために、公民館・地域連携協議会から地域コミュニティ協議会(まちづくり協議会)への移行がはじまります。

2014年に旧町村の生涯学習センター・コミュンティセンターを社会教育法上の公民館へ統一します。公民館支援業務の補助執行、市民生活部協働推進課公民館支援係。2018年に、教育委員会社会教育課を地域振興部公民館支援課公民館支援係に一元化して、施設整備係、人事管理までも含めて補助機関となりました。
佐賀市の公民館職員の大きな特徴として、グループ研修としての相互学習を実施していることです。そこでは、防災、まちづくり協議会に特化した地域人材育成、シニア世代の社会参加、学びを通しての地方創生、地域づくりの交流会、福祉と公民館などのグループ研究会として、2012年から相互研修をしているのです。
シニア世代による地域活性化ポログラムでは、社会福祉協議会、福祉総務課、地域包括センター、女性ネットワーク、さが子ども食堂等との連携を積極駅にしてのグループ学習であるのです。このことによって、関係機関や団体とのネットワークが構築され、公民館職員の力量形成がされていったのです。
事例研究をとおしての相互理解からから相互承認の場つくりになっていくのです。ここでは、公民館の一館という狭い枠から佐賀市全体の福祉ネットワークとひろがり、佐賀市のかかえている福祉の課題の普遍性が学びのなかで深まっていくのでした。
 
 第3は、佐世保における職員の養成と研修の新たな方向性という口石裕輔氏の報告でした。佐世保市は、指定管理者制度やコミュニティセンターに公民館が大きく変化しているということでした。公立公民館は、中学校の校区を基本にして設置されています。中央公民館がひとつで、地区公民館が27館になっています。
館長は、正規が2名で、フル嘱託20名、パート嘱託6名です。職員は正規10名、フル嘱託11名、パート嘱託21名です。嘱託の職員は5年が基本になっています。社会教育主事講習を受講して資格をとったものは、10年まで延長することができるとしています。
 平成24年度から地域コミュニティ推進事業の展開で、自治活動の拠点としてのコミュンティセンターということに移行しています。公民館を廃止して、市長部の局管理にして、指定管理者制度を導入が来年4月に移行するという検討に入っているところです。指定管理者制度の導入によって社会教育行政そのものが消滅していく危険性をもっています。従来の公民館機能をいかにして残すことができるのかということが大きな課題になっています。
住民自治の拠点ということでのコミュニティセンターということで、まちづくり協議会がその担い手になっていくというのです。自発的な学習を助ける場の従前の公民館の機能をいかにして残していくかという大きな課題があるのです。ここで、あらためて住民の自治による地域づくりのための学習とはなんであるのかかが問われているのです。
権利としての学習が大切になっているのです。社会教育の目標を住民の自治育成ということの内容を明確にして、従前の公民館機能の必要性を強調していく研修が必要です。地域をよくする講座ということで、公民館とは何をするところか、よい地域の価値づくり、住民自治の実現にむけて、先進事例から学ぶ地域をよくする学習プログラム、公民館は多様な世代の巻き込み・公民館テ^マパークの研修を5回にわけて実施しています。
市長部局における社会教育、公民館の認識の不足が大きく、自発的学習して意義よりも行政効率、行政遂行の視点が強い現状をどのように打破していくのか。この際に、住民自治を育むことを自発的学習の視点から深めていくことが必要ということでした。
 
第4の報告は、大牟田市の地域コミュニティ推進課で社会教育主事の西田久氏の報告でした。ESDを取り入れた本格的な事業展開を大牟田市として実施しています。全小中学校でユネスコ指定の事業をしているのです。平成30年度に市民の学習ニーズを把握するために、アンケートを郵送法で市民意識調査とインタビユ調査を実施したのです。
このことから、個人に関する学習の要望が高いことが明らかになったが、ボランティア活動、地域活動に関する意識がたかいことも明らかになったのです。そして、生涯学習を盛んにするまちにするためには、専門的な職員や指導者を配置する声が高いことがわかったのです。大牟田市は人口減少が著しい地域ですが、7つの高等学校があり、外の町村から生徒が数多く通学しているのです。この強みをどうのように生かしていくのかという課題があるのです。
ESDという持続可能な開発のための教育を全市的に実践している強みを地域づくりの学習にどのように結びつけていくのか。生涯学習ボランティア登録制度を充実させて、地区公民館や校区コミュニティセンターなどの課題でもあるのです。
 
以上4つの報告でしたが、全体的にまちづくり協議会などの組織が中心となって、自発的に学びながら地域づくりをしていくということよりも地域課題を推進していくために、コミュンティセンターの充実ということや指定管理制度などにみられるように、一般行政主導による側面が強く、住民の学習権や社会教育職員の専門性の充実どのようになっているのかということが大切と思いました。文部科学省の省令改正によって、社会教育士の導入が制度的に可能になっても、市町村行政が社会教育の専門性を重視しての地域づくりをしていかねば、意味のないことです。したがって、市町村の首長の社会教育専門性を積極的に位置づけていくとりくみをしていくことが、社会教育関係者として最も必要なことです。
 

 

村づくりと公民館

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