社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

農業中心の地域循環経済と人材養成

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農業中心の地域循環経済と人材養成

         

はじめに 

 地域循環経済にとって、農業は極めて大切です。 地域循環経済とは、日常の暮らしの物質やサービスの経済を受けるときに、多くがグローバル化しているなかであらためて問われる課題です。特産物や高級品、特殊の医療やサービス、観光業などは、地域の暮らしの物質やサービスではない。地域循環経済を大切にすることは、人々が生きていくための基本的条件のためと、持続可能な社会や自然循環の環境保全のためです。

 農業は食料、繊維、日常生活品など、地域循環経済の要であったのです。つまり、農業は人間が生きていくための食糧を提供し、生存のためには不可欠な産業です。

 人間は原始時代に、狩猟、魚や植物採取依存で生きていたのです。道具を使い、仲間と知恵を出し合って、共同作業をし、生活の糧を得て、保存していたが、自然に左右される不安定な日々を過ごしていた。

 また、集落を形成して、人間集団の絆を強くもっていた。それは、自然の厳しさからの対処でした。これらのことは、全くの自然の、なるがままの動物と異なっていました。

 まさに、原始の人々は、自然に大きく左右されて、暮らしをしていたのです。原始の人々にとって、自然の恵みが生きる糧であり、自然に順応して、自然のなかで生きていたのです。

 そこでの人々は、自然の価値は絶対的なものでした。自然は、生きていくうえでの感謝そのものであったのです。日本では縄文時代の世界です。豊かな自然に対する感謝の芸術的感性が育ち、デフォロメの世界が陶器の形や絵に現れたのです。

 神は、巨石であったり、樹木であったり、大地であったりということで、自然そのものであったのです。人々は、常に自然の森に感謝し、家を建てるために、生活のため、樹木伐採をするとき、神に許しの祈りをしたのです。

 稲作など、農業を人々がすることになって、自然のなるがままから、蓄えも年単位と大きくするようになり、人口も飛躍的に増大していくのです。自然災害、飢饉、疫病などで、自然の厳しさのなかで生きてきた人々は、蓄えることができるようになったことで、持続性を考えられるようになったのです。

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 人間は、農業の形成によって、生命の維持を目的意識的にできる段階に入ったのです。そして、古代の文明が生まれ、古代の都市が形成されて、農業に直接的な日常生活を持たない都市で生活する為政者の集団が生まれたのです。

 古代都市の富は、農業そのものであった。食料源になる農業を支配することによって、富を得ることができたのです。しかし、都市の拡大によって、農業開発が行われて、人為的自然破壊ということが人類社会のなかで生まれたのです。

 古代の都市は、人口集中と農業開発によって、自然破壊が文明の誕生で生まれるのです。ところが、巨大な古代都市は、環境問題ということから滅んでいくのでした。為政者にとっては、農業の振興と自然との共生ということが極めて重要な課題になっていったのです。

 古代文明時代から都市の形成は、そのまわりとの豊かな自然との共生が求められたていたのです。近代の資本主義の到来まで、人類は文明の発展によっての都市の形成、為政者の権力巨大化ということで都市が生まれました。そこでは、農業という食糧生産と自然との共生が大きな課題として、為政者は知恵を絞ってきたのです。

 しかし、近代の資本主義の発展による巨大な生産力主義、効率的な画一的な生産性、分業の発展ということから、農業の社会的位置の低下が起きた。農村の貧困化が進行した。都市と農村の対立、農業と工業の不均衡な発展が著しくなったのです。都市の権力機能の集中ばかりではなく、交通手段、文化的機能、情報などが集中していったのです。f:id:yoshinobu44:20210626094536j:plain

 農村の地域循環的な経済の仕組みは、分業の発展による単一の効率的生産体制のなかに組み込まれていくのです。農村ですら、巨大な資本主義的な利潤のための都市の商業資本に支配されて、生活の糧の食材さえを購入していくという世界に入っていくのです。

 例えば、山村は、森林の管理が高齢化で難しくなっています。この状況で、メガソーラー開発が進んでいるのです。発電容量に対する発電量13%といわれる極めて低い非効率メガソーラーは、大規模な森林伐採を日本各地で進めているのです。開発面積という施設設置からも極めて非効率なのです。また、大規模な森林伐採は自然災害の被害も大きくなっていくのです。

 かつては自然豊かで、その恵みのもとに暮らしていた人々が過疎化のなかで、地域自立的生活が一層に困難になっているのです。人類的な歴史からもう一度、森林などの自然のもってきた意味を再評価する時代になっているのです。

 その再評価は、現代の科学技術の発展を直視しながら、あらたに都市と農村の対立ではなく、共生的関係をどのようにつくりあげていくのか。従前の有限的な資源論からではなく、循環的に持続していくという農業からの資源論が求められる時代に入っているのです。分業論的、有限的資源論から、共生的な総合的な視点からの連携からの新たな科学技術の発展が必要な時代になっているのです。

 

1,地域循環共生経済時代の農政

 

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 2020年5月に食料・農業・農村基本計画を閣議決定しました。ここでは産業政策と地域政策の両輪を積極的に打ち出した。従来から進めてきた農業と加工・販売という6次産業という農業振興策から農業と福祉、農業と観光、農業とエネルギー、農業からの工業の新素材ということで、農業のイノベーション推進を積極的に打ち出したのです。

 地域資源の活用では、鳥獣被害に悩んでいる現状のなかで、それを捕獲して、処理加工や販売方法までも含めての問題提起です。

 この基本計画が出すまでもなく、日本の伝統的な山村では、そのことが当たり前におこなわれていたのです。かつては、マタギといわれた人々が狩猟を専業にして生計をたてていたのです。このマタギの文化が滅びてきたのです。山の民の自然循環の伝統文化があったことを決して忘れてはならないのです。

 

 ところで、農業と福祉の連携として、障がい者の発達の取り組みや、新しい働きのとして、個々の能力を活かした仕事などが考えられるようになっています。自然を相手にする農業では、健常者と知的障がい者などが協同しての有機農業などの商品開発が行われている事例が生まれているのです。

 農業を活用しての「非行」少年更生教育では、北海道の遠軽家庭学校から全国的に広がっていった実践です。また、保育福祉の分野でも森を利用しての子どもの発達を自然につくりあげている実践がされているのです。

 高齢者の福祉施設や生活困窮者の福祉活動なども農業を活用した取り組みが注目されているところです。農業と福祉の連携を推進する立場から農林水産省は、平成27年度から補助事業を開始しているのです。

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 農村への関連産業の導入として、森林サービス産業の創出を提言しているも2020年の農政基本計画の特徴です。農村は、豊かな地域資源として森林を保有していることから健康、観光、バイオマス発電、小水力発電が可能であるとするのです。営農型太陽発電の推進と共に、分散型エネルギーシステムも可能であるとするのです。

 ここで、重要なことは森林資源を自然循環型にしていくことです。バイオマス発電やメガソーラーが森林を乱伐して、自然破壊にならないことが重要です。この点についての重要な指摘は、農政の基本計画にはありません。セルロースナノテク技術による鉄鋼などに替わる工業資源として森林資源が注目されているなかで、森林の自然循環の仕組みは極めて大切なのです。

 農村の活性化をしていくうえで、地域コミュニュティ機能の維持や強化は重要であるという指摘を農政の基本計画は打ち出したのです。そこでは、世代間を超えた人々による協同の地域ビジョンが求められています。そして、小さな拠点の形成や多面的な機能が発揮できるようにするしくみづくりの提案を農政の基本計画をたてています。

 

 農村を活性化していくのに、生活インフラの確保も重要であるということが農政の基本計画の提言です。その提言には、住居、情報基盤、文化交通の生活インフラ確保があるのです。また、空き地・空き家の情報提供やその取得の円滑による定住条件整備のための総合的整備をあげているのです。

 

 ところで、忘れてはならないことで、生活していくうえでの保育所、学校、郵便局、買い物、病院、公共的な集会施設、公共セービスの役場などは、重要な要件です。そして、それを支えていく交通網の整備がなければ意味がありません。自家用車のみの論理だけでは子どもや高齢者にとって、きつい面があります。

 学校や役場の統廃合、支所の職員の定員削減の公共サービス低下の問題が現実にあるのです。これらの問題は、定住条件整備という面からは大きな後退側面です。

 農政の基本計画実現には、社会教育・生涯学習が欠かせないのです。社会教育行政が一般行政と結びついて、総合的に地域づくりのための能力形成をどのようにしかけていくのかということです。ここには、農業改良普及所・生活改良、教育訓練行政、福祉行政、コミュニティ行政ともも結んで、さらに、学校教育の地域との結びつきの地域の先生、地域の教材活動と結んでいくことが大切です。 

 

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 地域資源を活かしての高付加価値をもつ 農村発のイノベーションを推進するには、人材育成の必要性と並んで地域コミュニティ機能の維持強化と新たな農村活力を支える地域組織の形成を農政の基本計画は提起しているのです。

 地域内の人材育成には、地域課題や地域活性化の学習推進が求められます。多様な人材の活躍による地域課題の解決としての人材育成が問題になってくるのです。

 農政の基本計画は「農業を支える人材育成のための農業教育の充実」を次のようにあげています。「若い人に農業の魅力を伝え、将来的に農業を職業として選択する人材を育成するため、農業高校・農業大学等の農業教育機関において、先進的な農業経営者等による出前授業、現場での実習、農業生産工程管理等(GAP)に関する教育、企業や他の教育機関、研究機関と連携したスマート農業技術研修等、実践的・発展的な教育内容の充実やそのための施設・設備を進める。

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 農政の基本計画は、地域農業のリーダーとして、活躍し、経営感覚や国際感覚を持つ農業経営者を育成するため、産業界や海外と連携した研修・教育や、農業大学校等の専門職大学化などの農業教育機関の高度化を推進すると提起しています。

 これらの課題を農村でどのようにすすめていくのか。産業界や海外の連携した研修や教育を実践的な教育のなかで地域でどう進めていくのか。

 外国人労働者が農業分野のなかで多く入っていますが、かれらを単なる労働力ではなく、国際感覚を身につけていくうえでの絶好の日常生活での学びの場であるということも大切なことです。

 このためには、日本人と同じように待遇を整備し、コミュニケーションを円滑にするための日本語教育が不可欠なのです。そこでは地域で生きていくための当たり前の、人権尊重が求められているのです。つまり、地域での外国人との共生関係が必要なのです。

 さらに、農政の基本計画は、就職氷河期世代をはじめとした幅広い世代の就農希望者に対する実践的なリカレント教育を実施するとのべています。

 青年層の新規就農と定着促進の施策として、地域の就農受け入れ体制の充実に、就農前段階の技術取得段階から就農後技術指導、農地確保、地域における生活確立まで一貫しての関係機関との連携をすすめていくことを強調しています。

 就農希望者が増えるためには、農業の働き方改革を推進して、ライフスタイルの含めての様々な農業の魅力を発信していくことが必要とするのです。

 農業の特殊性は、自然との関係をもつ労働であるがゆえに、繁忙期と農閑期という季節性をもっているのです。農業の雇用ということで、この特殊性をどう緩和していくのかという課題があります。農業や農村の多様性から6次産業化ということだけではなく、農村のイノベーションということでの雇用の在り方、働き方も求められているのです。

 農業の技術教育と農村生活の支援に利点をおいた青年の就農対策の施策も多面的な側面からみることです。農村イノベーションということからの発想を転換していく必要があります。

 青年就農者教育にイノベーションと深く結びつけていくという創造的経営の学びや農業や農村で生きていく哲学・思想の学びが重要です。そして、地域のなかでリーダーとしての役割を発揮していく人間形成の学びの構築もあるのです。伝統的に培ってきた4Hクラブ、農業青年クラブなどの活動を現代的に地域づくり活動、地域計画活動などと結びつけて、高度に学びが充実していくことが求められれます。

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 お茶の刈り取り農業機械を運転するベトナム青年

 

 農林金融誌2014年4月号で上野忠義氏は、日本の農業教育の今後の方向について、書かれていますが、六次産業の対応できる確かな経営能力の育成に、技術取得中心にとどまらず、経営戦略、経営組織、食品流通、消費者行動、マーケッティング、会計、法務、リスク管理、事業創造などをあげています。

 今後は、六次産業により加工や販売、グリンツーリズムなど多様な事業展開が予想され、経営を学ぶことなど専門職大学院ビジネススクールなどで学ぶことも必要となることを提起しています。

 基本計画での農村イノベーションの強調をするならば、農業教育の役割を実践に即して、農業技術の側面ばかりではなく、高度な経営の学びを現実に即して行っていくことが求められているのです。この意味で、専門職大学院ビジネススクール的発想を農業分野でもつくりあげていくことが高度教育としての農業教育機関に求められているのです。

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 農政の基本計画では、女性が農業で能力を発揮できる環境整備を大切としています。農業経営における女性の参画は、大きな意味をもっているという認識です。地域をリードできる女性農業経営者の育成です。女性は食品加工の開発や消費する側の立場を考え安い状況です。6次産業化や、子育て、介護などの農業の多面的機能にとっての女性の発想は大きな潜在力をもっているのです。

 

 2,環境省の地域循環共生圏構想

 

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糞尿を利用した高千穂牧場の観光農園バイオマス発電所

 

 環境省は、2018年4月に第5次環境基本計画をまとめています。これは、国連の2030年までの持続可能な社会達成のために緊急に必要なSDGsの考えを活用した概念です。地域の特性に応じて資源を補完し、支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されるための概念としているのです。

 地域資源を持続可能な形で活用として自立、分散型の社会形成の提案です。そして、経済、国土、地域、暮らし、技術、国際化を示しているのです。

 各地域がその特性を生かした強みの発揮として、農山漁村では、食料、水、木材を提供して、自然エネルギー、水質浄化、自然災害防止をあげています。そして、自然資源・生態系のサービスができるとしています。地産地消再生可能エネルギーをあげるのです。

 都市は、資金・人材などの提供をします。地域産品の消費、地域ファンド等の投資可能とするのです。このような内容を概念の絵を森、里、川、海なども含めて示しているのです。

 地域循環共生圈をどのように確立していくのか。地方での都市と農山漁村との関係では地域循環共生圈を可能にしていく条件がありますがそれを具体的にどう実現していくのか。

 東京や大阪の大都市圈では、農山漁村との圈域での共生圈をどう考えていくのか。東京や大阪などの水を提供している自然条件でのつながりから共生圈を広く考えていくことは可能ですが、地理的に断絶しての共生圈をエネルギーなどでは難しくなっていくのです。

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霧島酒造のサツマイモからの焼酎かすを利用したバイオママス発電所。この施設で2000世帯相当の電力提供

 

 都市自身で再生可能エネルギーをどう創出していくのかという発想も大切です。農山漁村に膨大な自然破壊をしての非効率的メガソーラーや大規模な風力発電所の開発は、地方の収奪です。決して地域循環共生圈の再生可能な自然エネルギーではないのです。

 大都市では、個別住宅、集合住宅、ビル、スーパー施設、公共施設、スポーツ施設、高速道路、工場など、さまざまな建築物があります。この建築物からの太陽光のエネルギー創出が求められているのです。

 大都市でのゴミの排出は深刻です。ゴミをなくしていく消費物の販売形態の創出は重要です。現在のゴミや廃棄物と称されているのを発電エネルギーにできないか。ゴミや廃棄物は、大切な資源として、新たに生産物に転換していく発想の転換も必要です。石油や石炭などの化石エネルギーを克服して、地域循環経済をつくっていくうえで、再生可能エネルギーは需要であることはいうまでもないのです。

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 ガソリン車から電気自動の普及は、大きな課題ですが、都市部に再生可能エネルギーの施設の設置は極めて重要です。

 集合住宅やビルのオフィス、工場に発電所や電気自動車の充電施設の設置も不可欠です。食糧品・飲料の容器を容易にしていくために、容器を業者が回収して、なかみを購入していく消費形態も新しい試みとして実施されています。都市であるからこそ効率的に、容器を容易に回収できるのです。

 

 省エネの建築物も脱炭素化にとって、大切なことです。断熱材などを使っての省エネは、冷暖房のために電気エネルギーを使用する生活が一般的となっている現代の状況です。省エネ開発も重要な脱炭素化の事業です。

 農山漁村と大都市との共生圈の構築は広くブロック単位で地理的に連続をもつことが必要です。それは、個別に地域的連続性を持たない遠方からの特定の地域に再生可能な自然エネルギーからの電力供給ではないのです。共生圈という概念は大切です。

 都市と農村の不均等な発展は、自然を相手にする農林業が大きな要因です。それらは、土地の制約のなかから生産効率主義ではいかないのです。農林業の特殊性からの不均等の発展があるのです。その原理を無視して大規模な生産効率の農業を追及すれば、農業による自然破壊が進むのです。農山漁村は都市との経済的格差の問題も含めて、共生圈の問題と自然との循環関係もあるのです。

 

 大規模に森林を伐採して、非効率的メガソーラーの開発が日本の山村で起きているのが現実にあります。さらに、脱炭素の名のもとに大規模な森林伐採があります。自然破壊による再生可能エネルギー開発計画の推進は、メガソーラー建設の単価が大幅に下がり、利益が上がるということです。再生可能エネルギーは森林の循環という自然保護と一体となって進めていかねばならないことです。自然破壊ということを作り出していくことは、災害の経費負担の増大ということから、長期の経済発展ということから大きなマイナスになっていくのです。

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 2021年6月に森林・林業基本計画が閣議決定されましたが、そこでは再生可能エネルギー向けの林地利用の積極的推進が盛り込まれています。また、木質バイオマスの利用も重要な施策に入っているのです。

 林業作業の効率的利用の促進から重機の利用がなされるなかで、一律的に面としての森林伐採が行われ、間伐材という選択的伐採は難しい状況です。さらに重大なことは計画的に山の保全ということからの森林伐採の視点が乏しく、伐採した後の植林がなされていかないことです。

 むしろ、太陽光発電などの林地開発というの再生可能エネルギー建設ということで、大義名分が成り立っていくのです。閣議決定では木材利用や輸出を伸ばして、2030年度の供給量を2019年度の1.4倍に増やそうとするものです。

 この基本計画が循環的な森林保全ということから問題がないのか。植林、さらに林業管理を含めて、きちんと実行できるプランまで含めての検討が必要なのです。むしろ、植林や林業管理ができていない現状を直視して、具体的な対策を明らかにしていくことが急務なのです。放置されている竹林などの被害問題が端的にあらわれています。

 

 3、パリでの気候変動条約をはじめ環境保全の国際会議

 

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 2015年11月30日から12月13日にパリで国連気候変動条約の国際会議が開かれ、2016年10月に55か国、炭素ガス排出量55%をカバーする国の参加という条件が発効の条件でしたが、その条件を満たす国が批准したのでした。

 

 この条約は2020年以降の気候変動に関する国際的枠組みが決められ、21世紀後半には温室効果ガスと森林などによる炭素吸収量のバランスを取るために、炭素の排出削減の努力目標を定めたのです。日本は2050年までに炭素の排出をゼロにするということを国際的に表明したのです。

 国連環境計画と世界経済フォーラムは、世界の生態系破壊や土地の劣化の深刻な現状で、2050年までに総額8兆ドル(約880兆円)を自然に投資する必要があると報告しています。

 

 現在の自然への投資は1330億ドルです。30年度まで3倍、50年度まで4倍までという大幅な投資の必要をのべているのです。人間は自然の恵みから多くの利益を得ており、生態系破壊はビジネス上の大きなリスクになるという警告です。

 現代においても世界のGDP の半分は、自然に頼ることで経済発展を得ているのです。それは、農業や食品、飲料、建築分野で依存が高くしているのです。森林再生により地球温暖化の原因となる二酸化炭素の吸収利用を増やすということを重視することが大切です。それは、まさに自然を基盤とした地球温暖化を防止していくための解決策です。

 

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 生態系破壊は自然の恵みから人間が生きてきたことを否定していくのです。森林の破壊は自然の力のもっていた災害防止の役割を喪失させます。

 パリ協定という地球温暖化防止対策の世界的な提言は、森林の再生を大きな課題にしたのです。植林を長期な自然循環の仕組みづくりとして、積極的に位置づけていくことが求められています。

 森林地帯に非効率的メガソーラーをつくること自体が人類的な緊急課題の森林再生ということからの真逆の道であるのです。

 GDP という市場で取引された国内総生産という経済成長の見方に対して、生態系と生物多様性の経済学の国際条約国際会議は2008年に中間報告を出して、2010年に最終報告を日本の名古屋の国際会議で承認したのです。

 ここでは、現在のままで放置すれば二つの世界戦争以上の被害を人類にもたらすとしています。GDPの成長という経済発展指標は雇用創造、景気後退回避で有効であったが、しかし、この見方では健康の質の変化や教育の普及、自然資源の質と量などの国の富や国民の福祉の向上の指標にはならないとしているのです。

 生物多様性の喪失は森林資源で生きてきた人々に一層の貧困をもたらします。自給的農業で生きてきた人々に食料の危機がおしよせるのです。農山村漁村の貧困では、自給的農業は生活の糧に大きな意味をもっています。

 倫理的問題として、リスクや不確実性、将来の価値の割引は、人々の生活を不安におとしいれているのです。また、海洋や遺産的価値なども経済的価値をもつのです。

 

 自然は人間社会に食糧や繊維、淡水、健康な土曜、炭素の吸収、薬の提供、レクレーション、森林セラピーなどの心の癒し、その他広範で多様な恩恵をもたらします。これらは市場もなく、価格もない。公共財そのものです。

 そこで、経済成長には自然生態系と生物多様性の価値の適切な評価を市場に持ち込むことが必要となるのです。これらの自然による人間の恩恵からの経済的価値を生態系サービスとするのです。

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 生態系サービスの支払いを作り出す環境関係の法律や規制、それらを守るコンプライアンスの社会システムが求められるのです。そして、生態系サービスへの投資も行われる必要があるのです。そこでは、GDPの成長ということではない、経済発展の仕組みが求められています。まさに、自然共生循環の充実と人間の発展ということになるのです。人間の発展ということからの健康指数、人間と自然の教育の普及、人間的幸福、福祉などが自然との関係の指数での経済の発展のあり方が求められています。

 

 2015年に国連本部で、持続可能な開発サミットを行い、2030年までが人類的危機の地球温暖化にとって決定的に重要であるとして、持続可能な社会形成を地球規模で実現するために17項目のSDGsの目標を定めたのです。

 貧困や飢餓と健康や安全の水は地球温暖化などの環境問題と深く関わり、気候変動に具体的政策と生態系保護、海の豊かさの保護をあげているのです。

 2030年までの炭素の削減目標はEU90年度比で55%、英国68%,日本26%の目標をたてています。削減目標は五年ごとに報告して是正していくことになっています。地球全体から炭素排出量は中国23.2%,米国13.6%,EU10.0%,インド5.1%,ロシア5.1%などです。

 中国とアメリカの削減目標が地球全体からみれば大きな位置をもっています。トランプ元大統領はパリ協定の脱退を表明しましたが、バイデン大統領の政権になって、脱炭素の積極的な政策が打ち出されています。その目標値が注目されることです。

 パリ協定のもとに日本は地球温暖化対策推進法律の改正を2021年5月に行われました。この法律では地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素の推進が強調され、地域脱炭素化推進事業の名のもとに、規制緩和による自然環境や歴史文化が破壊されていく危惧があるのです。

 脱再生可能エネルギーは森林や歴史文化の保存によって地域自然循環のもとで実施しなければ真逆のパリ協定に反することになるのです。森林のもつ脱炭素を吸収する役割、森林のもつ災害防止、健康や文化、森林と教育・子育てなど生態系サービス経済の側面を決して見落としてならないのです。

 大規模な森林破壊の再生可能エネルギーは特定の大企業の効率主義的利潤のためにすぎない側面が大きいのです。脱炭素化を名目にした自然破壊の巨大投資が行われていくことを警戒しなければならない。

 

 年金基金や銀行などの機関投資家は、一般投資家の地球温暖化に対する善意の心を利用しての真逆の環境破壊が大規模に行われていくことが予想されるので、責任投資原則と環境問題に金融面から支援の透明化が求められるのです。

 さらに、最も重要なことは地球温暖化対策、持続可能な社会の形成、再生可能エネルギーということで、国の補助金が使われ、炭素税という仕組みがつくられていくなかで、一面的に脱炭素対策ということで、大規模な再生可能エネルギーの開発による自然破壊の心配があるのです。

 再生可能エネルギーは自然と共生していくことが原則です。その共生の工夫に科学技術が利用されていくことが必要なのです。このことを必須条件としての生態系サービス産業のなかで、再生可能エネルギーを積極的に位置付けていくことが求められているのです。