「ベトナム人の外国労働者問題と教育・生活課題」
神田 嘉延
(1)ベトナムの社会経済の現状をどうみるのか なぜ出稼ぎしなければならないのか
ベトナムは、現在GDP成長率6.5%と高い。しかし、民族資本が育っていないのが現状です。この成長率は外国資本の投資によって成し遂げられています。
ベトナムは、2007年にWTOに加盟しました。外国資本の投資によっての経済成長が行われたのです。ハノイ、ホーチミン、ハイホン、ダナン等の都市に、外資系企業の進出がされたのです。外国資本は、安い労働力をあてにしているので、決してベトナム国民全体の生活を豊かにするためではないのです。むしろ、賃金を抑えるため長い期間、勤務をすることを好まない事例をみることがあります。ベトナム進出企業が働く人びとの生活を豊かにしていく社会貢献が求められるのです。
ベトナム貿易は先進国の開発輸入と同時に、世界の最大消費国になっているアメリカへの輸出が大きな比率を占めています。日本のベトナム投資は、政府のODAと総合商社の工業団地造成の大型投資によって行われています。
最貧国であったベトナムは、外国投資によって、2010年に最貧国から脱出したようにみえます。そして、都市部の一部に外国資本や不動産経営との関係で富裕層が生まれています。しかし、農村部では貧しく、貧富の格差が拡大しているのです。
ベトナムは、1975年に戦争が終結して、南北の統一によって政治的に独立しました。しかし、アメリカの20年におよぶ経済封鎖で、極貧の状態に国民はつきおとされたのです。
このような状態のなかでボートピープルや出稼ぎが増大していくのです。長い植民地と民族の独立戦争、アメリカ等の先進国の経済封鎖によって、民族資本が十分に育っていかない状態が続いたのです。
ところで、ベトナムには自立して発展する可能性をもっています。ベトナムの識字率は高く、国民は高い能力をもっています。 また、ベトナム北部では、伝統的に手工業が農村に発展し、手先が器用なことと、工夫していく産業文化をもっています。絹織物、刺繍、米の加工食品、高度な竹加工の花器・食器・照明傘、石像づくり、盆栽、家具、伝統大工、帽子、かごなど様々にあります。また、豊かな資源もあります。 ブログ「歴史文化の旅 ベトナム」参照
ベトナムのもっている技術や人材、地域資源を生かして、それらを現代に商品化して、十分に独立した経済の発展に活用できる場が与えられていないのです。最大の問題は、ベトナムに自立した資本がなく、国家財政も貧弱なのです。
(2)日本への出稼ぎ者のための日本語学校・斡旋業者の問題
韓国では政府が責任をもって外国人労働者を受け入れています。日本のように中間業者が入って、借金のことの斡旋、リベートをとるしくみではありません。日本大使館の大使もベトナム人の青年に、悪徳日本語学校や悪徳斡旋業者の問題を指摘しています。借金をしても、日本に出稼ぎに行けばすぐに返せるということで、多額の借金をして日本に行くのです。日本への日本語学校でもアルバイトにおわれる語学留学生が多いのです。
韓国では日常会話ができなければ入国することができません。政府として、きちんとした職業斡旋をするのです。日本では、国際交流基金という政府系の外郭機関が日本語検定試験を行っていますが、それ以外にも民間の団体が日本語試験をして、きちんとしたものになっていません。
実際には、日本に入ってくる多くのベトナム人は、ホーチミンやハノイなどの日本への研修機関と斡旋業者が結合したところに長期間に語学等の研修と称してとめおきがされて、出稼ぎ先の業者との面接を待つのです。
日本の受け入れの企業も、中間の斡旋業者をとおして、受け入れをするのです。そこには、多くのミスマッチがあるのです。悪徳業者は斡旋料が中心になり、出稼ぎ労働者に対する個別の指導は、なおざなりにされるのです。日本語ができなくとも人柄が大切と豪語する斡旋業者も多いのです。
日本語教育と称して、軍隊的な訓練の規律や言葉が横行しているのが現状です。日本への出稼ぎ労働者に対する語学教育をはじめとする教育は十分になされていません。教育学、教育心理学、日本語の構造をきちんと理解した日本語教育の教師養成などベトナムでの日本語教育の抜本的改善が急務なのです。教育学部などの教員養成などで外国人のための日本語教育の養成が求められています。
せっかくの日本語検定試験を国際交流基金が実施しているので、それを活用して、まずは日本語教育にとりくんでいるベトナムでの良心的な日本語学校、ベトナムでの大学での日本語学科・コースを支援すべきです。
国際交流基金試験の内容には、読む・書く力を正確にみるようにするたの検討の余地がありますが、まずは、きちんとした日本語教育の制度づくりが必要なのです。また、広く使われている「みんなの日本語」も丁寧語などをはじめ日本の文化が正しく反映されていななど、これでいいのかと問題がだされています。日本語教育の教科書検討も必要です。
失踪した技能実習生は2017年に2870人を厚生労働省は発表しています。失踪は「高い賃金を求めて」としていたが、実際は最低賃金以下で、低賃金のためと答えていたのをかってに都合よく厚生労働省は集計しているのです。
日本では最低賃金制度は全国で決められるのではなく、地方ごとに決められ、大都市志向が賃金の面からも拍車がかけられています。経営の困難性を低賃金に求めがちなところがあり、ヨーロッパ等では、全国一律の最低賃金が設けられていることが常識です。
最低賃金すら守っていないということが、技能実習生の失踪の原因です。失踪者は、賃金が低いという回答が3分の2ということで、最低賃金を守っていないということが野党の集計で明らかになっています。日本語ができないことから、訴えることもできず、その相談する機関もわからない状況です。日本語ができなことにより、無権利な状況におかれているのです。
入国管理局の外国人収容所においても過酷な人権無視の状態があるのです。2017年3月に25日に1週間強い痛みをもって訴えていたベトナム人青年に、職員は医師にとりあうこともせずに死亡するという事件が起きています。
さらに、5月に、収容所では、職員の対応が問題として、約2週間におよぶハンストに100名が参加したことが起きています。
(4)日本での深刻な労働力不足
日本では、介護・医療、建設関係、飲食業、農業・農産物加工、漁業・加工工場、金属・機械の等工場など様々な分野で労働力不足が深刻になっています。とくに、地方では、その問題が顕著になっています。
4月から実施される外国人労働者の受け入れ拡大で、多くの自治体で懸念がもたれています。雇用主に求められる生活支援や日本人と同等な報酬といったことが実施されるかということです。そことは、共同通信の2月10日の全国アンケートで明らかになったのです。外国人労働者問題の矛盾は、自治体にかぶり、人件費をおさえるために外国人を受け入れる企業もあり、日本人の賃金もさげる要因になることも予想されるのです。
地方において、安定的に外国人の労働力を確保するためには、積極的に賃金を日本人並にしていくことが求められます。それを実施して、日本人の労働者と共に働きやすい職場づくりをしている企業もあることも確かでです。企業として、日本語教育の支援をすすめ、実習がおわり、母国に帰ってから、将来の進路をじっくり考えて、大学にいくケースもいくつもみられるのです。
その内容は、プレゼンテーションをさせています。ナムディン省と宮崎県庁、南九州大学と農村の発展のための人材育成の協定を結び、宮崎県と南九州大学から専門の農業技術者、農業研究者が指導に入ってくれています。このつなぎ役にナムディン日本語・日本文化学院の教員や学生が果たしています。若者達は日本で学び、様々なアイデアを出して未来に向かっている姿があるのです。
ナムディン日本語・日本文化学院は、農村に子ども図書館を設置しています。これは、日本の進出企業に社会貢献として、図書館をつくってほしいという願いからです。ナムディン日本語・日本文化学院を支援してくださった鹿児島出身の企業経営者からの寄付による図書館です。ハノイやホーチミンで日本語学校をやると斡旋業者と絡んでもうかる業種とされているところが多いのです。十分な日本語教育よりも回転率をあげということで、短期間で実際は、日本語が出来ずに日本に送り出してるのです。このような学校から決別していくためにも設立当初から非営利の理念をかかげてベトナム教育省からきちんと認可を受けて運営しています。
鹿児島や宮崎で働いて生きがいを感たり、自分の将来にとって非常に有益であったということが必要です。鹿児島や宮崎で永住したいという希望もでてくることも大切です。政府は外国人労働者の確保で、移民政策をとらないとして、外国人に対する差別的な労働政策をとろうとしています。多様性と異文化の共生を可能とする条件づくりなどが欠落しているのです。外国人労働者を多く入れようとする施策に、家族と共に暮らすことも否定しているのです。外国人労働者に対する日本での人間的な生活の確保が必要なのです。
ベトナムの自立発展と生涯学習 (アジア・南太平洋の生涯学習シリーズ)
- 作者: 神田嘉延,関隆通,ファム・フー・ロイ
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