社会教育評論

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子どもの虐待問題を考える- 野田市の児童虐待問題の悲惨さ

子どもの虐待問題を考える

   野田市児童虐待問題の悲惨さ

 千葉県野田市で今年1月24日に両親の虐待による子どもの死亡事件が起きた。自宅浴室での虐待である。両親は逮捕され、その痛ましい数々の虐待が明らかになった。子どもは学校のアンケートに父親からの虐待について訴えていた。

 このアンケートを虐待している父親に教育委員会は渡すという信じられないことをしていたのである。また、児童相談所と学校との連携もせずに独断で教育委員会は父親の訴訟するという脅しにおびえて、要求にこたえるいるのである。2017年11月に学校のアンケートにより、児童相談所は、虐待の確認をして、一時保護をするが、親族のもとで暮らすことで解除する。

 その後に学校の長期欠席が目立つようになる。学校は市の児童課に連絡したが、市の児童課は児童相談所に特別に問題がないと判断して、連絡をしていない。学校は直接に児童相談所に連絡をとるのではないというルールになっているという。児相は、1月21日に小学校での連絡で長期欠席の事実を知るが、死亡する24日まで対応はなかった。

 この4日間に虐待件数が24件あり、相談も含めると77件である。一保護は28人で定員25名を超えている。直近1年の虐待受付件数1594件で非常勤を含めて児童福祉士41人、勤続年数3年未満が56%である。

 児童の虐待件数は急激に増大しているのである。児童相談所が把握する児童虐待件数は、平成29年度133778件で、平成24年66701と2倍以上の急増である。 警察庁が、2018年に児相に通知した虐待件数は8万超である。実に5年間で2.8倍である。これは、2月7日の公表である。

 子どもは家庭の愛護のもとで育つはということであるが、現代社会では、親の虐待が増大している。なぜか、統計的児童相談所の通告が急増しているが、児童福祉や家庭裁判所等の、それに対応する機関の専門職員の配置や研修が極めて不十分である。児童福祉士の専門職の養成に多くの課題をもっているのである。児童福祉士のあり方も含めて抜本的な改正が求められている。
のである。

 現代社会の親の虐待件数の急増をどうみるのか。親の子育てのなかで何が起きているのか。野田の事件にみるように、単純な一時的な親の怒りの感情で体罰を行っているということではなく、繰り返し、子どもに対してヒステリックに虐待を繰り返していることである。親の非人間的な残虐性を帯びた人格が潜んでいるとしか思えない。
人間関係では問題なくても家庭のなかでは、別人のように非人間的暴力をふるう異常者になる人格の例もある。家庭のなかは、私的な世界で、なかなかみえない。また、わがままがきく空間である。隣近所でも親が暴力をふるっててもなかなか児童福祉機関に通告をすることはない。

 国連の子どもの権利委員会の日本への児童虐待に対する勧告

 2月7日に国連子ども権利委員会は、日本の子どもの虐待の深刻性について懸念を表明している。虐待防止の包括的戦略のために、子どもを含めた教育プログラム強化を要請している。虐待の調査と加害者の厳格な刑事責任追及を要請している。
 子どもの権利条約の第19条「親による虐待・放任・搾取からの保護」あらゆる適当な立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとること。必要な援助を与える社会計画の確立、・・・適当な場合には、司法的関与のための効果的な手続き」をのべている。

 子どもの虐待と親権喪失・停止の対応

 子どもの虐待問題では、親権に正面から向き合っていくことが必要である。民法では、こどもの虐待に対処するために、親権喪失と親権制限がある。親権は、子どもの利益第1ということから、親が監護し、教育する義務がるのです。このために、親が、その役割を果たさない状況では、子どもを保護し、子どもの成長発達のために最善の環境を提供することが求められている。家庭裁判所は、子どもの虐待に対処するために大切な役割があるのである。児童相談所家庭裁判所との関係を密接にとりながら、ときには、親権の喪失や親権の一時停止が求められるのである。子どもを親権者から離す、一時保護ということだけでは、不十分なのである。

 子どもの虐待で学校教育に求められる福祉の視点

 政府は、2月8日に子ども虐待緊急対策をまとまたが、児相や学校に緊急点検を一ケ月以内に実施するということであるが、今最も必要なことは、政府自身の児童虐待対策の包括的な戦略、教育プログラムに対する反省である。自らの反省からの出発が前提である。教育委員会がなぜ子どもの訴えのアンケートを加害者である父親に写しを渡したのか。
 学校を文書管理統制する教育委員会のあり方も含めて抜本的な改正が必要である。本来、子どもの教育の責任は学校にあり、学校は児童相談所と密接に連携し、ときには、子どもの最善の利益のために、家庭裁判所とかかわるときも大切である。
 学校には、児童福祉の専門家が配属されているニュージーランドなど多くの国で教育と福祉の連携をしている。日本の学校教育制度では、福祉とのかかわりが大きな弱点である。これは、虐待問題ばかりでなく、子どもの貧困問題、非行問題も含めてである。
 日本の学校教育では、教科指導と並んで生活指導が大きな柱になっている特徴があるが、それらは、教師だけの仕事としてされてきたが、児童福祉の専門機関との連携していくことがより一層に重要になっており、教員養成にも福祉の重要性についてカリキュラムも整備していくことが求められる。

 児童の虐待問題と社会教育

 社会教育としても学校との連携をしていくうえで、地域の教育力としての虐待防止のための活動をしていくことが求められている。子どもの虐待を知ったすべての大人は、福祉事務所、児童相談所への通告義務がある。児童福祉法25条の要保護児童発見者の通告義務が書かれている。
 また、児童虐待の防止等に関する法律第6条「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、福祉事務所、児童相談所に通告しなければならないとしている。この地域の大人達の通告義務と、親の子育てにおける虐待防止のための大人の社会教育として、子どもは社会で育てるという視点が必要である。社会教育と児童相談所との連携も深刻化する児童虐待の増大のなかで大切である。

 児童の虐待の事例から抜本的な対策を

 少しふるい、子どもの虐待による死亡事例等の検証結果の専門委員会による第七次報告が平成23年7月にださ れている。この報告書は、平成21年4月から平成 22年3月までの事例分析を行ったものである。
 この期間に厚生労働省が把握した事例は、虐待死事 例47例、49人。心中事例(未遂も含む)30例、39 人であった。虐待死事例は、6割が身体虐待であ り、ネグレクトは4割である。

 虐待死事例で 48.9%が実母であり、心中事例は実母が56.4%で ある。 報告書では、望まない妊娠と出産の問題として 次のようにのべている。「これまでの報告におい て、主たる加害者で最も多い実母の妊娠期・周産 期の問題として、虐待死事例では「望まない妊娠 /計画していない妊娠」(以下「望まない妊娠」 という。)、「妊婦健診未受診」、「母子健康手帳未 発行」が多くみられたが、第7次報告でも同様の 傾向がみられた。
 「望まない妊娠」の問題は虐待 死事例のうち11人(22.9%)になる。そのうち5 人(45.5%)は「妊婦健診未受診」及び「母子健 康手帳未発行」の問題にも該当していた。また、 3人(27.3%)は妊婦健診を受診しており、母子 健康手帳も発行していた」。 望まない妊娠ということから、妊婦健診の受診 をしていなかったのであり、また、母子健康手帳 の未発行ということで、生まれてくる子どもにつ いて十分な心の準備がされていないのである。望 まない妊娠・出産の問題を現代にどうみていくか。

 かつても日本の歴史のなかで子どもの間引きの 問題があった。伝統的には、子どもを育てる経済的な力がなくて、間引きをしたのである。避妊の 方法や人工的な流産の方法が、発達していなかっ たために、家族計画が合理的にできなくて間引き が行われたのである。この間引きと同時に水子供 養の信仰があり、死んでいった子どもが神のもと に帰っていくということで、傷ついた女性の心を 癒やすための風習があったのである。

  虐待死事例において、1歳未満の乳児の場合と 1歳以上3歳未満と3歳以上の場合では、加害の 動機も異なっていると報告書は指摘している。かつての貧困な農村の家族で子どもを間引きしたこ とと重ねてみると、一歳未満の子どもとそれ以上 の子どもの虐待死亡の事例とは、動機が本質的に 異なるとみられる。

  報告書では「日齢0日が「子どもの存在の拒 否・否定」、日齢1日以上3歳未満では、「保護を 怠ったことによる死亡」、「泣きやまないことにい らだったため」、3歳以上では「しつけのつも り」の割合が高く、「保護を怠ったことによる死 亡」も複数みられた。 また、「保護を怠ったこと による死亡」(8人)では、自宅や車中に放置し 火災や熱中症によって子どもが死亡した事例のほか、必要な栄養を与えないなどによって死亡した 事例がみられた」。

  望まない妊娠での日齢0日の虐待では、子ども の存在それ事態を拒否する精神構造があるのであ る。3歳未満では、放任・養育放棄ということで 保護を怠ったことによる死亡事例が多い。 3歳以上になるとしつけのつもりとして、感情 的に暴力を振るうことが多くなっていく。報告書 では「「しつけのつもり」(8人)について加害者 の内訳をみると、実父3人、継父2人、両親2 人、実母の交際相手1人であり、「子どもが反抗 した」、「おねしょ(夜尿)に腹が立った」などが きっかけとなっていた。子どもの成長・発達の過 程で見られる変化についての養育者の理解が乏し い。「しつけのつもり」として、感情に任せて力で 子どもの言動を制しようとする虐待は例年複数み られる」としている。ここでは、実父や継父など の事例が目立ってくるのである。

 しつけのつもりで子どもを虐待している事例 は、子どもの人権そのものを否定し、子どもを自己の従属物としてしかみていない意識が根底にあ る。子どもに対する愛情を基礎に、子どもにも一 人の人間としての尊厳をもっている。このことの 意識が希薄な側面があるとこを見逃してはならな い。

 3歳以上になると、実父や継父などが感情的に反抗したから、おねしょをしたからと暴力をふるって死亡させてしまうのは、自己中心性の男性 のもっている支配欲と結びついた暴力性である。 女性の場合は、感性的に我が子意識からくる自 然的な母性からの本能による子どもを守り育てようとするものが身についている。
 しかし、男性の場合 は、目的意識的にならなければ、子どもに対する 愛情意識をもてない。家族を培って、愛情で結ば れた夫婦の関係で生まれた子どもには、父親は、 その基盤のうえに愛情を注ぎ、子どもの成長への 期待をはずませていくが、その心も目的意識性がなければ、生まれてこないものである。
 
 ところで、虐待の子どもの家庭の経済状況は、 極めて厳しい状況である。報告書では経済状況と の関係で次のようにのべている。「実父母の就労 状況について「無職」の構成割合をみると、虐待死 事例で実母が50.0%、実父が16.1%、心中事例で 実母が40.0%、実父が15.4%であった。

 特に実父 の「無職」の割合は年々高くなっている。家族の経 済状況について構成割合をみると、「生活保護世 帯」ないしは「市町村民税非課税世帯」は、虐待死 事例で27.7%、心中事例で13.3%と第6次報告よ りも高くなっている。
 無職ということで、経済基 盤がなかったりするなど、貧困問題が子どもの虐 待に大きく関係している現実を直視しなければな らないのである。 心中事例は、加害者が「実母」である事例が多 い。ここにも無職や非課税所得層などの貧困層の 割合が高く、貧困問題が深く関係しているのであ る。

 報告書では、「心中事例について加害者が「実 母」である事例は17例(22人)、「実父」である事例 は10例(14人)であった。死亡した子どもの年齢 別に構成割合を見ると、主たる加害者が「実母」 である割合は6歳未満まで高く、1歳未満の心中 事例の60.0%、1歳以上3歳未満の75.0%、3歳以上6歳未満の61.5%であった。
 6歳以上では 「実母」、「実父」がそれぞれ47.1%と同じ割合で あった。 実母が子どもの虐待の加害者となっている場合 は無職である場合やパート就労という低所得であ ることが指摘されている。このことについて、報 告書は次のように指摘している。「加害者が「実 母」である場合の「実母」の状況は、年齢は平均 36歳(26~48歳)、就労状況は無職が8事例、 パート就労が4事例、不明が5事例であった。ま た、ひとり親(離婚・未婚)は6事例で、うち5 事例は無職あるいはパート就労であった」と。

 母 子世帯など、無職やパート就労などで厳しい経済 状況に置かれて、生活苦が重くのしかかって将来 の展望も描くことができず、絶望になって心中に 陥るケースが多いというのである。 「子ども虐待による死亡事例等の検証結果」の 専門委員会の第6次報告書(平成20年4月1日か ら平成21年3月31日)までの事例は、死亡事例は 心中以外が64例、67人であり、死亡した子ども (心中以外)の年齢別では、0歳児が39人(59.1 %)と最も多く、うち0か月児が26人(0か月児 の66.7%)と集中している。

 この報告書では、ア ダルトチルドレンの問題や過去の虐待を悩まされ ていることがみられると次のようにのべている。
 「機能不全家族で成長したと自覚するアダルトチ ルドレンの問題や過去の家庭環境における虐待の 記憶やイメージ(心像)に悩まされ続ける人の問 題にも関係してくるが、虐待による後遺症的な副 作用を簡潔にまとめると『自分の存在や行動に自 信が持てなくなり、他人を信用できなくなること によって、通常の日常生活や対人関係を送ること が極めて困難になる』ということである。・・・ ・・児童虐待とは精神的・社会的に無力な子ども から『心身の疲れを癒せる物理的な居場所(家 庭)』を奪うだけでなく、『精神的な安全基地とし ての家族関係』をも奪う行為であり、その後の子 どもの精神発達過程や対人関係の能力に好ましく ない影響を及ぼす危険が高い」と分析している。

  児童虐待は、家庭の愛護のなかで子どもが豊かな 環境のなかで育つ場を奪うだけではなく、子ども の精神的発達や対人関係の成長を奪っていくことを指摘している。 虐待のなかで育った子ども、アルコール依存の なかで育った子ども、夫の家庭内暴力のなかで 育った子ども、絶えざる夫婦喧嘩のなかで育った 子どもは、大人になって虐待をする確率が高くなっていく。
 
 子育てをしていく家庭の役割が機能不全で成長 した大人は、アダルトチルドレンとして、本来的 に人間的に成長していくことができずに、人格的 に様々な問題をもって大人になっていくのであ る。

 過去の家庭環境の劣悪さは、子どもの虐待を 惹き起こす精神的な問題の確率を高くしているの である。 つまり、虐待の家庭で育った子どもが大人にな ると、虐待を起こす確立が高くなっていくという のである。虐待は子どもの人格形成に大きな影響 をあたえていく。子どもに対する深い愛情をもて ずに、感情的にしつけや教育と称する虐待は、人 間的に子どもが成長していくうえで、大きなマイ ナスになっていく。

  子育ての家庭機能を奪っていく貧困化は、子ど もの人格を破壊していく要因をつくりだす。医師 で幼児教育に力を入れたイタリアのモンテッソー リは、どんなにひどい状態で逸脱して発育した子 どもでも一人の人間として成長していけるように と、虐待を受けた子どもでも人間的に成長できる 可能性をもつとしている。
 そのためには特別な教育 環境や援助が必要であるとしている。 子どもは自然からの宿題をもらっている。子ど もは自然のプログラムにそって、今やらなければ ならないことに本気で向き合うことが大切である。