社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

第2の近代・個人化と青少年の孤立からの解放―南九州大学教授 澁澤透先生の最終講義を中心としてー

第2の近代・個人化と青少年の孤立からの解放
 ―南九州大学教授 澁澤透先生の最終講義を中心としてー

     神田 嘉延

 

 澁澤先生は30年間にわたって南九州学園で社会科学的視点から教育学を担当してきました。近代的な主体形成の社会的認識力をどう育っていくのか。学生時代は、貧困地域のセツルメント活動に参加し、子どもの遊びを大切にした活動をしました。
 そして、生活綴り方教育をとおして、子どもたちの人間形成を探ってきたことを紹介しました。それは、教師の教育実践の素晴らしさのひとつです。戦後の教育実践を4期に分けて説明しました。民主化と教育の第1期、第2期は、仮説実験授業や水道方式の教育の現代化、第3期は、問題行動と教育、第4期が、90年代後半、低成長期の心の教育、学力向上です。最終講義では、第4期に焦点をあてて、発達と社会ということから第2の近代化・個人と青少年の孤立からの解放の問題提起を講義しました。
 澁澤先生は、現代において、地域共同体、家族などの個人を守る中間集団が衰弱しているとみています。そこでは、個人化=社会形態と心の習慣が乖離しているというのです。渋沢先生は、U.べックの第2の近代と個人化の概念から問題を深めています。ベックの第2の近代と個人化にとって、渋沢先生は、全体像のベックの理論を最終講義で省いたので、渋沢先生の講義と一部重複することがありますが、簡単に説明しておこう。
 ベックにとって、現代は、階級間の不平等の拡大、高度科学の応用による環境破壊、ジェンダー問題からの家族のリスク、議会の民主的統制の機能不全、官僚制肥大化の問題など様々な分野でリスクが生まれている社会というのです。
 第2の近代においては、自己内省的近代化が必要としているのです。ここには、近代の個人化には、個々が自立した力をもつために、制度として、宗教の寛容、市民的基本権、政治的基本権、社会的基本権が内実していることが求められるというのです。つまり、制度化された個人化を社会的に確立していくことです。
 また、現代は、家族が安全の源泉からリスクの源泉になっているのです。家族が担ってきた機能が社会化しなければ家族そのものがリスクになっていくというのです。保育所の整備、介護施設の整備などの社会保障が不可欠になっている時代がそのことを物語るのです。
 リスク社会をどのようにコントロールしていくのか。U.ベックにとっての大きな問題提起にもなるのです。議会による民主的統制は、期限付きの選挙によって選ばれた専制政治からから民主的に保障された討議の場が必要なのです。官僚制の肥大化という問題点もあります。経済的システムの原理と利害に対して、政治=行政システムが相対的に自律性を有していることと、さらに、司法が独立していることをあげています。
 高度の科学発展によるリスク社会は環境問題にあらわれているようにきわめて大きな課題です。原子力発電所の事故は、その典型です。高度の専門のみで科学技術開発をすることを廃して、専門相互間の関連性を基礎に専門の道をさぐるべきとしています。危険予測できるために科学者自身がコントロールできるであろうか。リスク社会と孤立していくという第2の近代の現実で、いかにして、自立した個人、制度として保障されていく個人化をつくりあげるかという課題があるのです。
 澁澤先生は、日本の青少年は、自尊感情がとくに低いと統計的データーから示します。そして、このことは日本の社会環境、教育環境にあるとします。また、90年代後半以降に地域や家族の絆の弱まりによって、子どもの表現に家や家族の人物を描くことが小さくなったとしています。自己を肯定する意識も弱くなり、孤立している子どもが増えているというのです。子どもは、内的な動機で行動するのではなく、外的な動機によって行動することから、孤立に拍車がかかっているのが現代の特徴と澁澤先生はのべるのです。
 自己肯定感を高めるためには、自己主張をしながら自己抑制していく発達の援助が必要とします。また、承認の場と社会参画の追求が不可欠です。子どもの市民参加の教育をどのように進めていくのかという大きな課題があると渋沢先生は問題提起するのです。それは、大人と異なる子どもの自身の発想による参加です。社会参加をとおして、いくつかの段階の子供間の承認と社会的承認によって、子どもの自尊心の高まり、自己肯定が増していくというのです。
 澁澤先生は、南九州大学の退職後に、東京で青少年向けの塾を開いていく構想をもっているようです。先生の東京でのご活躍を期待します。

 

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