社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

子どもの虐待問題と社会教育の役割

 
子どもの虐待問題は、警察関与強化で解決するのか
 
 南日本新聞の3月25日の記事では、虐待 警察関与強化へと大きな見出しで書いています。児相と連携、OB配置促進というしです。全国の警察が昨年摘発した児童虐する待事件は1380件、保護した子どもは約4割というのです。
 
 政府は、児童相談所への警察OB配置促進や児相との連携などの警察の役割を強める対策を打ち出した。政府は警察による一層の関与を柱の一つに据えた。威圧的な保護者を想定した警察OBの配置です。財政面などの支援拡充を打ち出し、児相との情報の共有、児相の立ち入り調査に警察の同行の役割拡大を打ち出しているのです。
 
 警察法は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、民主的管理と運営を保障することが明記されています。警察の責務は、個人の生命、身体および財産の保護に任じ、犯罪の予防と公共の安全と秩序の維持にあたることを責務としているのです。市民警察として、国民から尊敬と感謝される存在であるのです。決して、市民の自由と権利を犯すものではないのです。
 
 専門家からは、警察が前に出すぎると保護者が態度を硬化する恐れもあるという声もでています。ある警察幹部は、釈放後、児相に怒りの矛先を向ける親もおり、児相関係者の中には摘発強化に消極的な人も多い。警察は健全育成といった福祉面の意義を十分に理解したうえで、児相や民間などの協力を模索すべきという記事です。
 
 児童虐待問題の福祉的側面、精神医療的な側面等からの独自の社会教育的側面
 
 児童虐待問題の福祉的側面、精神医療的な側面等からの独自の社会教育的側面が全く考慮されていないのです。また、社会教育においても児童虐待に対応できる子育ての学習を展開する専門性との連携も十分にされていないのが現状です。
 
 専門性をもった児童福祉司の内容的な検討と配置の充実が求められているのです。現代における児童虐待の本質的なとらえ方は、福祉的な側面、教育的な側面、現代社会の家族問題、精神的な病の側面、人間関係の孤立化などから考えることが必要なのです。
 
 子どもの虐待問題は、精神的な病や孤立化のなかで、親の子どもに対する人権感覚のないことが大きいのです。親権は、親の子どもに対する支配権であるという認識も少なくないのです。このような状況の中で、福祉の機能を充実して、子どもも親も、人間らしく生きられる場の提供のために、地域社会のなかで絆を築き、社会教育の役割は極めて大切なのです。ときには、子どもと親を離す緊急避難的な機能もあるのです。相互の信頼の関係、相互尊厳の関係が将来的に構築することは、不可欠なことなのです。
 
 現在の安倍晋三政権は、子どもの虐待問題の対策に警察との連携の強化の促進を柱にしようとしていますが、その発想は、警察国家的な治安対策的発想が根本にあります。警察からの児童相談所への派遣の増強が検討されていますが、子どもの虐待問題は、刑法的な犯罪としての治安対策的なものではないにです。
 
 親の子に対する人権意識
 
 親の虐待は、子に対する人権意識のなさが根本にあります。また、地域社会、社会全体として子どもを育てていくという状況が核家族化のなかで崩れ、ますます親の個人的意識、個人的思いで子どもが育てられる傾向が強まっているのです。
 
 核家族化、親の個人化意識のなかで、児童相談所家庭裁判所、警察、学校、社会教育機関などの関連機関の相互連携が大切になっているのです。また、子どもを育てていく社会的養護という視点が大切にななります。未成年後見人や社会的養護施設の充実があらためて求められているのです。
 
 子どもは親の思うままに育てられるのではないのです。子どもは人間的に調和のとれた発達のためには、家庭環境のもので幸福、愛情のなかで育てられることが必要です。このために、親の役割は、子どもの成長にとって大切なのです。その状況がないなかでも子どもが育っていくには、大人による家族的な愛護の環境が必要なのです。社会的養護という視点においても家族の愛護のなかで子どもは育つという原則的な見方をはずしてはならないのです。
 
国連総会の児童(子ども)の権利条約第19条
 
 国連総会で、1989年に全会一致で採択された児童(子ども)の権利条約第19条では、親による虐待・放任・搾取からの保護をうたっています。国際的な共通の認識として、その条文を紹介します。まず、子どもの虐待は、身体的な虐待だけではなく、精神的な暴力と放任・怠慢な取扱を含むものです。この内容について、次のように述べています。
 
  「1,締約国は、親、法定保護者または子どものを養育をする他の者による子どもの養育中に、あらゆる養育中に、あらゆる形態の身体的または精神的な暴力、侵害または精神的な暴力、侵害虐待、放任または怠慢な取扱い、性的虐待を含む不当な取扱または搾取から子どもを保護するためにあらゆる適当な立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとる」。
 
子どもを虐待から保護するためには、立法上、行政上、社会上および教育上の措置

 子どもを虐待から保護するために、立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとることとの重要性を指摘しているのです。虐待を禁止していく法的な措置だけではなく、行政的に虐待から子どもを保護する措置が大切なのです。子どもの虐待を禁止していく法的事項を具体的に行政的に整備していくことが求められていくのです。児童虐待から子どもを保護していくうえで、専門職の配置での児童相談所の充実をどうしていくのか。家庭裁判所児童相談所の連携の充実をどうしていくのか。

 児童虐待を防止していくうえで、法的には、親のしつけと虐待の関係が大きな課題になっています。とくに、民法822条で親の懲戒が認められているなかで、しつけとの関係で暴力を容認していく親も少なくないのです。体罰を明確に禁止していくことが法的に求められているのです。
 
 民法では、子どもの利益のために子の監護や教育する権利としての親権者の懲戒権ですが、親権は親の子どもに対する支配権という誤った見方が根強くあるということで、しつけのために暴力を容認していく親も少なくないのです。
 
 懲戒権は、体罰を含むものではないのです。しつけによる体罰は認められていないのです。学校の現場では、教育のために懲戒は認められていますが、体罰は許されていないのです。学校教育法11条には明確に規定されています。
 
 そして、「体罰禁止に関する教師の心得」を文部科学省は指導しているのです。体罰禁止は、とかく感情的行為と区別しがたい一面を有していることと、人格の尊厳を著しく傷つけ、相互の信頼と尊敬を基調とする教育の根本理念に反するということからです。家庭でも同様で、子どもの成長には、親との相互信頼と尊敬のなかで健全な人格が育つものです。そして、独自性としての家庭環境のもので幸福、愛情のなかで育てられることが調和ある豊かな人格に育っていくのです。
 
子どもの虐待を防止するために社会計画の確立
 
 国連の子どもの人権条約では、子どもの虐待を防止するために社会計画の確立と実体の調査、司法的関与の重要性を次のように指摘しています。
 「2,当該保護措置は、適当な場合には、子どもおよび子どもを養育する者に必要な援助を与える社会計画の確立、およびその他の形態の予防のための効果的な手続、ならびに上記の子どもの不当な取扱いについての事例の認定、報告、照会、調査、処理および追跡調査のため、および適当な場合には、司法的関与のための効果的な手続を含む」。
 
 子育ての社会計画の確立のためには、親の子どもの人権意識の現状、子どもの体罰容認や子どもを支配する親権意識などの克服のために社会教育計画が極めて大切なのです。法的に子どもの虐待防止を制定し、行政的にも整備しても親の子どもの人権に対する意識が大切なのです。
 
 そして、子どもへの虐待によって、法的に処罰されても親子関係の円満な関係が築くことは難しいのです。むしろ、親は、児童相談所家庭裁判所に対して怨みをもつようになっていくのです。親自身の教育的な作用なくして、親子関係の信頼関係、相互の尊厳関係、関係機関の感謝の関は育っていかないのです。法的に対応では、児童相談所家庭裁判所との関係は大切ですが、教育的な側面、信頼関係などの構築が大切なのです。
 
親権制限制度や未成年後見人制度は平成23年の民法改正
 
 厳しい体罰の状況に置かれている子どもを救うためには、親から子どもを一時的に離す児童相談所の一時保護も大切です。また、ときには、親権の一時停止もやもえないこともあります。
 
 親権制限制度や未成年後見人制度は平成23年の民法改正により最長二年間の親権停止が可能になり、その請求には、子ども本人や未成年後見人などにも拡大するようになったのです。
 
子どもの申し立てたには、満10才程度であれば
 
 また、未成年後見人には、個人だけではなく、社会福祉法人も可能になったのです。子どもの申し立てたには、満10才程度であれば、意志能力があると解され、裁判所長は、弁護士を手続き代理人として選定できるようになったのです。
 
 10才程度であれば子ども本人が親権制限の申し立てができるということですので、学校教育関係者が身近に日常的な子どもとの接触がありますので、子どもの生活上の異変も気づきやすい立場にいるのです。子どもの健全な発達、命を守る立場から親の虐待について、教師は真剣に向き合うことが求められている時代です。
 
 むしろ、教師は親との関係で無理な要求をつきつけられ、クレーマーになって恫喝されて悩んでいる現実もあります。モンスターペアレントという問題です。我が子を自分の分身・所有物と錯覚して、学校に自己中心的に要求してくることです。親の孤立化、子ども発達のことを知らない大人の価値観でみてしまうことなど様々な問題の意識状況があるのです。
 
 児童相談所児童虐待相談件数は、平成28年度に12万2578件にあがっています。児童相談所家庭裁判所の役割は益々大切になっていますが、同時に子どもの人権、子どもの最善の利益などを考えていく社会教育の役割が不可欠なのです。
 
社会教育が機能していかねば
 
 社会教育が機能していかねば、社会全体が法的な処理、警察権の社会秩序のみになり、親自身の児童相談所家庭裁判所、警察への不信と怨みにつながり、かえって不信社会を助長していくことになるのです。社会全体で子どもを育てて、子どもの人間的な人格の発達につながっていかないのです。
 
  地域の身近なところから児童の虐待の防止体制を築いていくうえで、虐待を防止していく市町村の職員体制の確保・専門性の向上が不可欠です。このためには、 必要な職員の確保がなければ実施できないのです。市町村の相談担当職員の7割は兼務であるといわれます。
 
 
 また、相談担当職員の37%は一般行政職です。児童福祉司任用資格相当の職員は8%弱、社会福祉士は2%にすぎないのです。各市町村とも児童虐待の人材確保に、一般職員からの任用が多いために苦心している状況です。児童虐待が多くなるなかで児童福祉司のあり方の専門職員採用のあり方や社会教育職員のなかで子育ての専門職員の採用なども検討する段階になっています。
 
 そもそも児童福祉司は、専門資格を持つ職業ではないのです。地方公務員試験に合格して児相に配属された職員のことなのです。その職員の専門職のあり方の検討が必要なのです。
 
 現状では、多くの児童福祉司は数カ月の研修で現場に出ています。児童虐待の対応には保護者との関係構築が不可欠です。一人前になるのに10年はかかると言われています。野田市の女児のケースを担当していた柏児相は、勤務年数が3年未満の児童福祉司が非常勤職員を含めて56%、計41人中、実に23人を占めていたのです。

 親が児童福祉司を大声でどう喝したり、暴力を振るったりするケースは少なくないという。さらに、ひどいときは、刃物を持って「子供を返せ」と乗り込んできたり、鈍器のようなものを投げつけたりする親もいるというのです。ここには、明らかに親と相談機関の信頼関係がないこともあらわしています。
  政府が2022年度までに児童福祉司の数を6割増やす方針を打ち出していますが、専門性のない人や非常勤の経験のない人が配置されれても十分に機能しないのです。