社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

都城盆地の学校と地域づくり ー地域に誇りを持つ子どもの育ちと地域の人材養成ー

 

農は脳と人をよくする ―子どもの発達と地域― 改訂版

農は脳と人をよくする ―子どもの発達と地域― 改訂版

 

 

都城の学校と地域づくり
ー地域に誇りを持つ子どもの育ちと地域の人材養成ー
   
 
「学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策」の中教審答申の検討と地域の人材育成
           神田 嘉延
                      
  都城盆地の人口減少は厳しいものがあります。農林業、介護・医療をはじめ、労働力不足は深刻になっています。一方で、子どもの貧困問題も進み、経済の問題と結びつけて子ども達に夢と希望を持たせていく教育は、学校と地域企業が共に連携していかねばならない課題である。

 貧困家庭で育った子どもの中には、自分の将来を生活保護で暮らせばいいと、進路には夢も希望もないと答える子どもさえ生まれています。労働力不足の地域の状況のなかで仕事に夢や希望を持てない子どもが生まれている。

 これは、学校教育の課題ばかりではなく、地域の産業が真剣にとりくむべきことを意味している。偏差値教育による受験学力向上、スポーツ一流主義、コンコクール一流主義の弱肉強食の競争主義の教育ではなく、地域の豊かな文化をもった振興に夢や希望を託せる子育てが求められている。

 学校教育の新しい考え方として、 中央教育審議会平成27年12月に「学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策」を答申している。 「学校を核とした地域力強化の観点から,全公立小・中学校において,学校と地域が連携・協働する体制を構築するために,コミュニティ・スクールや学校支援地域本部等の取組を一層促進する旨が示されている。地方創生の実現に向けて,これからの子供たちには,地域への愛着や誇り,地域課題を解決していく力が求められるとしている。

  教育は,地域社会を動かしていくエンジンの役割を担っており,教育により,子供たち一人一人の潜在能力を最大限に引き出し,全ての子供たちが幸福に、生活を充実して、生き甲斐をもって、楽しく生きら れる基盤になる能力形成をすることっである。

  つまり、学校は,全ての子供たちが自立して社会で生き,個人として豊かな人生を送ることができるよう,その基礎となる力を培う場である。子供たちの豊かな学びと成長を保障する場としての役割があることはいうまでもない。そして、子ども達が将来の夢を実現できるように援助していくことは大切な課題であり、そのことは、社会の発展にも繋がっていくことである。同時に、地域コミュニティの拠点として,地域の将来の担い手と地域と共に発展していくことも求められていることを見落としてはならない。

 とりわけ,これからの公立学校は,「開かれた学校」から更に一歩踏み出し,地域でどのような子供たちを育てるのか,何を実現し ていくのかという目標やビジョンを地域住民と共有し,地域と一体となって子供たちを育む「地域とともにある学校」へと転換していくことを目指していくことである。

 この答申での開かれた学校とは、地域の将来の担い手を育てるために、地域でどのような子どもを育てるかという教育目標やビジュンを住民と共につくりあげていくことの提言である。

 この意味で、まずは地域に誇りがもてるような教育をどのようにつくりだしていくかということである。このためには、地域の教材を積極的に授業で活用し、地域の人々が学校教育に参加していくことである。

 子ども達に将来、地域で活躍できる夢や希望をもたせるには、どういう進路指導、職業教育をしたらよいのか。子ども達にあらゆる可能性をもたせながら、地域をみていくことも必要なことである。
 
 昔から日本人が旅を好んだのは他の世界を知りながら、自分達をみつめ、癒やしとしての旅をしたのである。都城に育った子ども達は外をみて、世界を知って、都城を見直していくことが必要である。

 地域のことを学んでいくことは、直観的、体験的なことをとおして、知識を体のなかにしみこませていく教育方法の工夫も必要である。それは、忘れる学力ではなく、生きた体に身について定着していく学力である。地域の教材を利用していくことを他の世界との体験と交流は不可欠なことである。地域での留学生や研修生との交流もひとつの工夫である。

 都城盆地でどのようにしたら地域・企業と学校が一緒になって、地域の担い手になる子どもをどう育てることができるのか。そんための教育目標をどうしたら定めることができるのか。中央教育審議会「学校と地域の協働のあり方」の答申は、全く新しい発想である。

 教育目標を定めていくうえで、どのような未来の地域をつくりあげていくのかというビジョンが必要である。それがなくては、地域の担い手を育てることはできない。
 
  社会教育と学校教育との連携ということで、今までの研究は、コミュニティスクールなどの地域住民との関係での学校運営等の学校と地域の組織論的な関係、学校の住民参加運動などの学校管理運営の民主化の問題であった。

 今後は、社会教育の側からの学校への積極的な参加を教育内容の面から明らかにすることが大切である。そして、学校教育の教育課程に組み込まれた地域と学校との関係から、それに参加した大人達の学びをも不可欠である。
 
 子どもたちも,総合的な学習の時間や,放課後・土曜日,夏期休業中等の教育活動等を通じて地域に出向き,地域で学ぶ,あるいは,地域課題の解決に向けて学校・子供たちが積極的に貢献向き,地域で学ぶ,あるいは,地域課題の解決に向けて学校・子供たちが積極的に貢献するなど,学校と地域の双方向の関係づくりが期待されるとしている。

 2015年12月に中央教育審議会の「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」の答申が出されたが、これからの学校と地域の連携・協働の在り方として、子供も大人も学び合い育ち合う教育体制の構築という発想である。
 
 地方創生の観点からも,学校という場を核とした連携・協働の取組を通じて,子供たちに地域への愛着や誇りを育み,地域の将来を担う人材の育成を図るとともに,地域住民のつながりを深め,自立した地域社会の基盤の構築・活性化を図る「学校を核とした地域づくり」を推進していくことが重要としている。
 
 答申は、地域が学校・子供たちを応援・支援するという関係ではなく,子供の育ちを軸として,学校と地域がパートナーとして連携・協働し,互いに膝を突き合わせて,意見を出し合い,学び合う中で,地域も成熟化していく視点が重要であると考えている。
 
 さらに、学校教育のコミュンティティティの考え方と、 社会教育「地域学校協働推進本部」との連携を積極的に中央教育審議会平成27年12月に打ち出した。その内容は「学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策」の答申である。 「学校を核とした地域力強化の観点から,全公立小・中学校において,学校と地域が連携・協働する体制を構築するために,コミュニティ・スクールや社会教育での学校支援地域本部等の取組を一層促進することが示されている。

  この答申での開かれた学校とは、社会教育と連携して、地域の将来の担い手を育てるために、地域でどのような子どもを育てるかという教育目標やビジュンを住民と共につくりあげていくことの提言しているのです。

 この意味で、まずは地域に誇りがもてるような教育を学校教育と社会教育の連携のもとに、どのようにつくりだしていくかということである。このためには、地域の教材を積極的に授業で活用し、社会教育をとおして、地域の人々が子育てに参加していくことである。
 
 この答申は従前の偏差値教育に偏りがちな学力競争中心の抜本的な見直しが必要である。学校教育での学力そのものを地域との関係で生きる力を見直し、また、教材、教科書も全国的な画一的なものではなく、地域の教材を積極的に利用していく教育方法のあり方の改革も必要である。
 
 アクテイブラーニングを単なる汗水流して楽しむ体験学習に終わらせるならば、真の生きていくいくための明日への夢や希望を実現させうための学力形成にはならない。
 また、地域住民との協働ということが学校を利用した地域住民の動員主義になれば、全体主義的な国家の教育権になる危険をはらんでいる。
 
 住民による民主主義の参加が不可欠であり、社会教育による民主主義教育なくして、学校と核とした地域づくりの民主主義の実現はあり得ない。この意味で、社会教育と学校教育の連携における民主主義の問題が根底にあることを忘れてはならない。
 
 社会教育法が改正され、平成29年4月25日に文部科学省は、地域学校協働活動の推進にむけたガイドライインを出している。ここでは、学校を核とした地域創生を積極的に打ち出し、学校には、社会に開かれた教育課程を推奨している。地域学校協働本部が地域住民からつくられていくのである。
 
 ところで、地域によっては,公民館等の社会教育施設を一つの拠点として,高齢者の健康維持や文化の伝承等の地域課題に関わる社会教育活動を,住民が主体となって活発に行っているところもある。
 
 学校という場を地域の人々が集い,学び合う場としていくだけでなく,このような拠点が学校とつながり,双方向の関係を持つことも有益であると社会教育の公民館の役割を学校連携との関係で積極的に評価している。
 
 
 
 都城の地域づくりと学校の連携の取り組み

 都城盆地の歴史文化を教材にして、日本や世界の歴史文化を理解できる授業の工夫もひつようである。それは、授業ばかりではなく、子ども達が実際に目でみて直観できる遺跡博物館や遺跡展示物の教育行政での条件整備も不可欠である。

 子ども達に将来、地域で活躍できる夢や希望をもたせるには、どういう進路指導、職業教育をしたらよいのか。都城盆地でどのようにしたら地域・企業と学校が一緒になって、地域の担い手になる子どもをどう育てるのかという教育目標を定めが必要である。 
 
 都城盆地の歴史文化を教材にして、日本や世界の歴史文化を理解できる授業の工夫も求められている。それは、授業の工夫ばかりではなく、子ども達が実際に目でみて直観できる遺跡博物館や遺跡展示物の教育行政での条件整備も求められる。
 
 公教育としては、喜んで子どものために参加できるように地域住民の経済的負担をなくしていく条件整備も必要なことである。有償ボランティア制度の活用や講師料の充実検討の課題もある。
 
 宮崎県都城市の中郷中学校の校長の教育実践は、福祉教育の実践を地域住民の授業参加との関係で活発な活動がされている。ここでの地域住民の授業参加は、三年生全員をグループに分けて、そのグループに大人達が複数以上参加して、生徒と一緒に課題に即して議論するものである。

 校長が主導する授業は、福祉のこころをはぐくむ授業として「耕心学」と名づけている。福祉教育は、施設訪問、高齢者への手紙活動等の体験活動を重視している。直接体験出来ない場合でも疑似体験をしている。

 体験の教育目的は、大変な人、かわいそうな人という一面的な見方で終わるのではなく、安心してサポートするとはなにか。そのための人のつながり、社会参加を図るサポートのあり方、当事者とのコミュニュケーションをはかることを大切にしている。目的意識的な課題をもっての計画的体験活動である。

 生徒達が現実に起こっている問題を主体的に考える福祉教育であり、正確を教えるというのではなく、それぞれの福祉の問題に、地域の人たちが実際に関わっていることを気づかせる授業である。そこでは、大人達と現実の問題をみながら解決を考える授業の工夫をしている。このために、授業のなかで大人達と議論する場を積極的につくっているのである。

 参加する大人達も授業の前に校長先生から授業のねらいを聞き、資料が事前に配られて、子どもと議論する準備活動、心構えをしている。また、課題については、専門家から生徒と一緒に授業を受けてから授業での大人もまじえてのグループ討論に入っている。つまり、生徒ばかりではなく、大人もその課題についての基礎的な学習をしているのである。

 「共に学び、共に生きる」という理念に基づいた地域の大人達が参加していく教育活動である。すべての人々が差別や排除されることなく、人はひとりひとりみんな違うゆえにひとりひとりが尊重されるという福祉教育の目的をおさえ、地域と学校が連携しての教育実践をしていることである。

 地域と連携したカリキュラム開発として、地域を生かすカリキュラム、地域と共に学ぶカリキュラム、地域に貢献するカリキュラムの編成をしている。例えば、非行問題との関連で、少年法を考える授業を展開するが、ゲストティチャーは弁護士の講義をしてもらっている。

 そして、大人と一緒に議論できる教材として、10歳の少年が殺人事件を起こしたイギリス・バルガー事件を取り扱っている。10歳の少年が自分のとっている殺人の行為が非常に悪いことだと判断できたか。死亡させる意図があったか。大人も含めて、生徒達も様々な意見がでてくるのである。このように、大人達と生徒達が共に深く考えていく題材を選んでの授業を展開しているのである。

 三年生の耕心学の授業のテーマは、「中学生はもう大人、まだ子ども」「災害時で起こること、支援とはなにか」「こうのとりゆりかごから生きることを考えよう」「代理出産の是非を考える」等。

 コミュニティスクールとの関係は、福祉教育の実践、耕心学の授業によって、一層に深く繋がっていく。学校運営に地域住民の声を反映させるための協議の場に、コミュンティティスクール・学校運営協議会が役割を果たしている。

 学校支援ボランティアの会が地域に組織され、その活動の場に学校に地域住民が自由に集まる部屋が保障されている。ここで、住民同士が学ぶ場にもなっている。学校は大人が生徒と関係を持ちながら大人の社会教育活動の役割を果たしている。