社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

転換期にある社会教育職員のシンポジュウに参加して


日本社会教育学会・九州・沖縄の研究大会の報告内容
 転換期にある社会教育職員のシンポジュウに参加して
              神田 嘉延

 日本社会教育学会の九州・沖縄地区の研究集会は、6月23日に長崎大学で開かれました。長崎県大分県、福岡県、佐賀県の社会教育職員の養成と研修の状況について報告を聞くことができました。

 長崎県からは、長崎県教育庁の柿本博志氏による報告でした。
住みたい、住み続けたい、訪れてみたい、もどってきたい、ふるさと長崎県と題して、長崎県の社会教育職員の研修の状況について報告がありました。長崎県は、このままの推移でいけば、2040年に、消滅可能自治体は半数になるということから、人口減少は、深刻になっていることから報告がはじまりました。

 そして、未来を担う人材の育成ということから、社会教育の研修は、子ども・地域の現状を直視しながら、その抱えている課題の解決のための学習が必要であるとしたのです。長崎県社会教育関係者のスキルアップの研修は、地域社会の課題として、求められている知識習得や役割を学ぶことをとおして、人・団体とつながる県内のネットワークを広げ、コーディネート力の向上が求められるとしたのです。

 公民館の研修では30名程度、毎年集まっていましたが、今年度は、公民館を核とした活力ある地域づくりとしたことにより、教育委員会だけではなく、他部局からも130名と多数参加して盛り上がったということです。地域づくりと社会教育に一般行政の職員の関心の高いことに、社会教育担当者として励まされたということです。長崎県社会教育スキルアップ連続講座として、17単位をとった職員に修了証書を出しているということです。

 新たな課題として、学校との協働活動があります。その協働活動が地域活性化とどのように結びついていくかということで、高校での地域課題解決学習、長期的な就労体験をとおして、地域人材形成に貢献していく「デュアルシステム」の体験発表を連続講座のなかに入れ込んでいるのでした。

 長崎県社会教育関係者のスキルアップ連続講座は、ワークショップをとおして参加者同士がつながることに工夫しています。また、県の課題や施策についても参加者と共に考えたことも特徴でした。

 長崎県では、社会教育職員やその経験者によって、研究会組織「草社の会」がつくられて自主的に勉強会をもっているのが特徴です。社会教育職員として、生涯勤める人ばかりではなく、学校の教員や一般行政から社会教育職員として配置されるケースも多く、必ずしも固定した社会教育職員の身分ではないことから、社会教育職員の活動の蓄積と継続性として、大いに役にたっているということです。

 大分県は、教育庁の石井圭一郎氏の報告でした。
石井氏は、地域を担う人づくりと活力ある地域づくりの推進ということkら、社会教育行政職員と組織の現状の報告がありました。大分県の市町村では、社会教育委員253名、公民館運営審議委員391名、社会教育主事発令17名、有資格者36名、社会教育関係職員正規273名、臨時・非常勤92名です。

 大分県社会教育行政職員と現状と課題では、地域づくりに関連する人材ばかりではなく、社会教育における活動体験が少ない職員が増えていることです。また、特定の社会教育施設しか関心をもたない職員が比較的多いのです。社会教育行政の運営に指導力、企画力を有する職員が不足している現状です。社会教育職員の専門性、その資質向上と能力開発が喫緊の課題になっているという報告でした。

 とくに求められる社会教育主事の専門職として、プランナー、アドバイザー、コーディネーター、行政のマスタープラン、地域振興策等の広範な行政からの社会教育への課題発見能力が必要であるということでした。

 福岡県は、福澤祐一郞氏の報告でした。
福岡県の社会教育主事研修は年3回で約60名です。そして、県地域活動指導者研修会150名、地域コーデネーター研修会100名、県公民館大会900名、県社会教育研究大会100名と実施しています。福岡県社会教育課では、ふくおか社会教育ネットワークとして、ホームページをつくり、県や市町村の社会教育施設等のそれぞれの社会教育活動を紹介しています。

 県社会教育主事の研修会はグループ研究から個人研究に変えています。年3回の社会教育主事の研修会をそれぞれの課題解決に向けた研修会に変えていくためであったのです。年3回ある最初に、個人研究テーマの設定からはじめ、2回目は、中間報告、グループ討議、3回目がA4一枚の報告による報告会ということです。

 最後に佐賀大学の上野景三氏による「転換期における社会教育の理解」の報告がありました。
上野氏は平成29年8月の「社会教育主事養成の見直しに関する考え方」「平成30年3月8日の「転換期の教育振興基本計画(答申)」の検討でした。
 国の省庁のコミュニティ政策の関心による、社会教育行政、公民館を地域課題解決や地域学校協働活動につなげていくたものとしての施策に。社会教育や公民館の役割が公的社会教育施設のみなら、NPOや民間も含めての地域づくり施策の学びの場に大きく転換しようとしているというのです。

転換期の社会教育について、平成29年から平成30年の新たな施策動向

 それぞれの国の社会教育施策についての提示がなされないままに、報告が行われたのではないかと思いました。聞いていて、ポイントがつかめないことでした。ここで、あらためて、自宅に帰って、平成29年8月の社会教育主事養成の基本的考え方や今年の2月に出された答申などを読み返してみました。

  平成29年3月の「本年3月の社会教育法改正により,地域学校協働活動の機会の提供が教育委員会の事務として位置付けられたこと,②同じく本年3月に「学びを通じた地域づくりに関する調査研究協力者会議」が,今後の社会教育主事に求められる資質・能力について論点整理を行っていること,③その他,近年,社会教育分野においても教育格差解消等に向けた取組が求められており,福祉部局等の多様な主体との連携・協働の必要性が一層高まっていることに留意することが大切である」と社会教育主事養成の見直しの基本的な考え方を提起しています。

 ここでは、地域づくりというこを福祉分野や教育格差ということで、経済産業省的な観光開発や規制緩和による経済成長促進活動ということでの地域づくりの強調ではないようにもみえるのです。その真意はよみとれません。

 平成29年3月28日の学びを通じた地域づくりの論点整理では、1,コミュニティの維持活性化への貢献、学びの成果を活かした地域づくり。2,社会的包摂への寄与、高齢者、障がい者、外国人、困難を抱える人々など住民が孤立せずに社会参加。3,官民パートーナーシップによる社会教育の推進があげられています。
 そして、持続可能な社会教育システムの構築として、1,教育委員会と首長部局との連携・協働。2,学校との連携・協働。3,官民パートナーシップの推進、NPO、大学、企業との連携。4,社会教育委員の積極的活用の提言がされています。

 文部科学省の提言する社会教育主事のあり方、社会教育概念の再整理についてどう考えていくのか。社会の構造が大きく変化し、地縁組織に依存する従前の団体主義では社会教育活動の活動が大きく縮小していることはいうまでもありません。しかし、あらたに社会教育の国民的な要望の高まりです。それは、地域生活の様々な問題状況で暮らしとの関係で社会教育の要求が大きくなっています。このことは文部科学省も指摘しているところです。むしろこの共通の土台を大切にして、社会教育の充実を深めていくことが必要なのではないかと思います。

 それが地域課題解決のための学習の場としての社会教育の問題提起になっていくのです。ここで、考えなければならないことは、基本的人権や民主主義、自由を尊重しての学びです。少子化の対策として一部にある女性蔑視の発言にみられるのも見逃せないことです。学びは基本的人権として、人間らしく生きるための基本的な権利なのです。地域課題を暮らしと人権を守り、自由と民主主義を尊重することでの地域課題であるのです。このことを決して忘れてはならないのです。

「指定管理者により運営される社会教育施設の職員など多様な関係者から社会教育主事講習の受講希望が寄せられている状況にある」という指摘のように、公務による社会教育主事としての専門職から指定管理者制度という民間委託というなかで、社会教育の専門職員のあり方が実体的に崩されているなかで追認的に「社会教育主事養成のあり方」の変更の提言もあります。これは、大きな問題です。社会教育の専門職性の内容をきちんと検討して、民間ではなく、公務員として、やるべきことが
あるのです。それが、公教育としての社会教育の役割です。
 さらに、「社会教育主事の数は,市町村合併の影響等により減少傾向にあるが,社会教育主事資格には大きな社会的なニーズがあり,今後とも,地域学校協働活動をはじめとする社会教育の各分野において資格の活用が見込まれる」としています。

 本来ならば公教育として社会教育を位置づけていくならば、市町村自治体をはじめ公的な機関が社会教育主事を積極的に配置していくことが求められているのです。現実は公的な職員を減らして、民間に委託していっているのが現状ですが、これは、営利事業活動と関連させる社会教育活動に結びつく可能性があります。社会教育は国民の権利としての学習です。学びは豊かな幸福ある精神的な生活、人間らしい生きていく権利としての学びを公教育が保障することです。

 文部科学省社会教育主事の養成の基本的な考えでは、「今後,新たな社会教育主事の養成制度では,NPO,企業等の多様な主体と連携・協働して,地域住民の学習活動の支援を通じて,人づくりや地域づくりに中核的な役割を担うことができる資質・能力の養成が図られることから,社会教育主事養成の検討の報告では、資格に対するニーズが一層高まることが予想される」として、社会教育主事の役割は一層、社会的に高まっていくが、それを民間に委託していく方向性がみられるのです。

 つまり、公的な教育の役割を縮小させているのです。社会教育政策・生涯学習政策が民間活力ということで、公的に財政を積極的に支出することも軽視しているのです。ここに、政府の基本的な公的役割の軽視があることをみていかねばなりません。様々な社会教育の役割を重視するような施策をのべているようですが、財政的に支出せずに、民間に委託して、民間活力で社会教育政策・生涯学習政策をしていこうとするのは自らの公教育の役割の放棄につながっていくのです。決して、公的に行政に配属された社会教育の担当者が指定管理団体に対する「管理・評価」の仕事になれば、全くの公的な社会教育専門職の大きな後退です。

 また、「国においては,社会教育主事養成の見直しに当たり,社会教育主事資格が社会の各分野で活用され,社会全体における学習の充実と質の向上が図られるよう,社会教育主事講習と社会教育主事養成課程の修了者に「社会教育士(仮称)」の称号を付与するよう法令上の措置を講ずることについて検討することが求められる」として、社会教育主事の任命を減じていくことと同時に、新たな社会教育士の創設を提言しています。

 国が提言しているように社会教育資格が広く社会に活用されるようになっていくのかどうかは、大きな論点です。「社会教育主事講習等の機会を社会教育活動に携わる者に広く開放し,社会教育主事資格を社会で広く活用できる汎用性のある資格とすることにより,今後,多様な関係者が社会教育主事講習等を受講するようになることが予想されるが,社会教育主事の職務を的確に遂行し得る基礎的な資質・能力を養成するという社会教育主事養成制度の本来の役割が損なわれることがないよう十分に留意することが必要である」。

 ここでも社会教育主事の本来の専門性が損なわれないように留意事項としていますが、安易な社会教育主事の専門職への資格付与が危惧されのです。2020年度4月から実施を考えているようですが、社会教育の専門職性の内容を大いに議論すべきであると思うのです。
   文部科学大臣は平成30年3月2日に「人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について(諮問)」を中央教育審議会にお願いしています。

 諮問のなかで社会教育施設の地域づくりの果たす役割について次のようにのべています。「近年,公民館,図書館,博物館等には,従来の役割に加え,地域活性化・まちづくりの拠点,地域の防災拠点などとしてのより幅広い役割も期待されるようになっています。特に,博物館については観光資源としての観点から期待が高まっていることもあり,地方公共団体からは,博物館の運営について,まちづくり行政等の他の分野との一体的な取組を総合的に行いたいという要望も高まっています」。
 「特に過疎化や高齢化が進行する地域においては,社会教育施設の利用者に占める高齢者の割合が高くなるとともに,医療ニーズの増加等に対応した高齢者福祉施設の整備も求められることから,今後これらの施設の複合化が進むことなども予想されます」。
 「公民館,図書館,博物館等において様々な地域課題により的確に対応した取組を行うためには,これらの施設を含む社会教育行政部局とまちづくり関係部局,福祉・健康関係部局,産業振興関係部局,教育機関,企業,NPO法人等の多様な主体との連携を強化することが欠かせない状況となっていることにも留意しつつ,これからの時代に求められる公民館,図書館,博物館等の役割と,それを実現するために必要な方策について,その施設としての所管の在り方も含め,検討する必要があります」。

 国は社会教育概念の再整理として、地域課題解決学習として明確に位置づけようとしているのです。社会教育は、地域コミュニティの構築のために大切な担い手づくりで、コミュニティの将来像やあり方を共有して、地域課題の解決をしていく学びの場は不可欠としているのです。