社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

文部科学省の学びを通じての地域づくりの推進の調査から考えること

 文部科学省の学びを通じての地域づくりの推進の調査から考えること
            神田 嘉延

 地域づくりという視点からの調査

「学びを通じた地域づくりの推進に関する調査」を平成 29 年 3 月・ 文 部 科 学 省 株式会社政策研究所でまとめています。調査期間は、平成 28 年 11 月 7 日~平成 29 年 3 月 15 日 。アンケートの回収は、教育委員会:393 票、首長部局 :268 票、社会教育主事:374 票、社会教育専門職員:353 票、公民館:431 票、図書館・博物館:563 票、活動に参加する地域住民・NPO:265 票、社会教育主事養成大学:95 票 であった。
 組織的に文部科学省が地域づくりという視点から社会教育を調査したものとして、注目するものです。今回は、記述式の回答で重要であるとおもわれるところをわたしなりに整理して、その解釈をのべさせてもらう。 

 この調査が学びを通しての地域づくりということからなので、現実に教育委員会が首長部局と連携して地域課題にどのように取り組んでいるかということは重要なことである。

 まず、地域課題ということでは、生涯学習部局・社会教育部局と首長部局がどのようなことで連携しているのかということで、次のように回答している。

 子育て連携事業では、国の放課後子ども総合プランに基づき、健康福祉部と連携し、放課後こどもクラブと放課後子ども教室の一体型での「子ども・子育て支援事業計画」の一部改訂を実施している。
 保健福祉部と、子どもの放課後対策(放課後子ども総合プラン)について連携し、推進会議を開催したことで一体型の促進に向けて足並みをそろえた事業展開を図ることができた。この回答項目の記述では、同じようなことが数多く書かれています。子どもの福祉に関する連携が大きな位置を占めているのです。

 健康福祉の分野では、健康センター(保健福祉課)と、健康ポイント事業について連携し、市民の体力テスト数値改善の効果があった。60 歳以上の住民を対象とした年間講座の内容については協議を行い実施している。健康福祉主管部局と、生活支援活動人材育成事業について連携し、高齢者の生きがいづくり等高齢期教育の充実に効果があった。健康推進課と健康をテーマにしたフェスティバルについて連携し、ニュースポーツの紹介などを通じて健康に関する幅広い情報を多くの市民の方々に提供することができた。

 学校と地域との連携では、地域の資源を活かしての授業づくりや地域の人材育成に学校教育の役割の活用をしている。
 それらは、「ふるさとの森」の整備事業について連携し、市内の中学生・高校生と地域住民や環境保護団体と協働して森の整備事業を実施にみられる。その結果、地域の自然環境が保全され、中学生・高校生にボランティア体験活動の場を提供でき、中学生・高校生と地域の大人との斜めの関係づくりにも効果があった。
 地域振興部局や産業振興部局と、市内にある高等学校の授業について連携し、地域の人材や地元企業が高校生とともに活動する場を持つことができた。教育委員会の自然体験事業の際に、首長部局の農林水産課と連携し、海岸の生物の捕獲や説明等を行い、地元に生息する生物について理解を深めることができた。企画課と豊かな自然や歴史、産業の学びを通じて、青少年の健全育成に効果があった。

 文化観光スポーツ課との連携事業は、観光ボランティアガイド養成講座である。この講座によって、後継者に悩むボランティアガイドの後継者の養成ができた。縮小傾向にある伝統文化の継承について、首長部局との連携を図ることにより助成制度を活用し新たな人材(参加者)の掘り起こしや、意識高揚を図った。商工観光課と教育委員会文化財担当者が協力してどのように文化財を活用していくか検討している。ここでは、文化財を積極的に利用しての観光開発を社会教育と連携を模索しているのである。


まちづくりの出前講座と公民館


 まちづくり出前講座(市役所各部課)を作成し、市民からの要望による講座・研修に対応している。このことによって、講座の企画に幅広い分野への対応ができるようになった。
 公民館を核として地域づくりを担う人づくりを推進していくことをねらいとする「地域課題解決型公民館支援事業」を実施している。この事業では、公民館を核として主体的に地域課題を解決しようとする地域住民の気運を醸成し、地域振興課が実施する「小さな拠点づくり推進事業」へとつなげていく。
 このため、実施公民館等のヒアリングや公民館等の定期的な支援を教育委員会と地域振興課が連携して行っている。首長部局等と連携して「まちづくり出前講座」を実施し、市民が主催する集会等に市職員を講師として派遣し、市政の説明、市が取り組む事業の説明、専門知識を活かした実習等を行うことにより、市民の市政に関する理解を深めるとともにまちづくりに対する意識啓発を行った。地域のにぎわい創出や伝統文化の発信などの観点から新たな図書館の基本構想について首長部局と連携して検討を進めている。
 行政の仕事を出前講座にしていくことは市民参加への行政の基盤にもなっていくのである。公民館を核とした地域づくりは、学びをとおしての地域づくりとして、積極的に評価した。このアンケートにでてくる自治体の具体的な取り組みを知りたいところです。この取り組みは、住民参加による地域民主主義の形成の展望にとって、どのように機能していくのか注目したいところである。



小学校の校区ごとのまちづくりと生涯学習

 小学校区ごとにこころ豊かなまちづくり(生涯学習)に関わる事業を総合的、効果的に推進するため、関係団体の相互連携・協力を図り、事業についての企画並びに連絡調整を行い、住民の自己学習活動の進展に資するとともに、住民主導によりこころ豊かなまちづくりを進めることが可能になった。
 この取り組みは、小学校の校区という歩いていける範囲でのきめの細かい活動として評価したい。人材の発掘として地域が狭まることによって、その困難性をどう切り開いているのか興味ある課題である。住民の自己学習がどのように効果を発揮しているのか知りたいところである。児童生徒を対象とする行事と商工関係部局によるイベントを同時開催して行事全体を盛り上げるなどの取り組みを行っている。

 コミュニティ推進課(市長部局)と社会教育課(教育委員会)が共催し、生涯学習推進員研修や、社会教育・公民館関係職員研修会を行い、優良事例の共有や、両課と推進員の連携による事業推進が行われている。防災課連携し、「地域で災害に備えることの重要性」や「コミュニティ形成の大切さ」などを学ぶという効果があった。市民交流課の所管する交流センター(指定管理)と、勤労青少年講座・幼児家庭教育学級・高齢者学級などの講座について連携し、多くの市民に幅広い学習の場を提供するという効果があったと考えられる。
 地縁組織が衰退していくなかで、あらたに、コミュニティを組織していくのは、目的意識的に参加者自身が、主体性をもたなければうまくいかないものである。この課題に社会教育がどう貢献しているのか。学びを通してのコミュニティづくりである。

 町産業祭と文化祭等を連携し、集客効果や地域住民の参加にある程度の効果があった。観光担当部局と、地元かるたの販売について連携し、観光客等に販売を行い市のPRと地域文化の発信に効果があったと考える。地方の農山漁村が過疎化していくのは、地域で経済的に豊かに生活していける所得が十分に得ることがことができないことにひとつの理由がある。この意味で、地域の産業振興は大きな課題になってくる。社会教育がこの課題にどのように向き合っていくのか。また、首長部局行政との連携をどうしていくのか。これらは、地域づくりにとって大切なことである。


人権尊重の教育とまちづくり

 基本的な人権を尊重していくことは、民主主義にとって基本的な課題である。また、個々の地域で自由に生きていくためにも人権が地域のなかで守られていることは不可欠である。人権教育が地域でどのようにして取り組まれているのかは、社会教育にとって大きな課題である。
 人権教育では、人権対策課と教育委員会人権担当が協力して、広報誌人権ネットワークを作成したり、地域への人権出前講座を行っている。人権啓発作品の募集、表彰、講演会について教育委員会と首長部局の人権担当部署が連携し、事業実施体制の強化及び集客の増加に効果があった。人権男女共同参画課と人権教育について連携し、地域の人に人権について考えてもらう機会を得たとしている。


  首長部局との連携・協働について、どのような課題がありますかという問いでは、人手が足りないことをあげている。

 政策を実施するに当たり、人員が足りないため、主担当の部署に任せっきりになっている。職員が少なく、新たな分野に割ける余裕がない。地域事情により様々課題があり、現状の組織機構(職員配置・業務過多等)では、どうしても関係課(係)間のみの連携に止まり、町全体の取組みとなっていけない。
 また、物理的に庁舎が離れていることも大きな課題である。どのようにして、この空間が離れているマイナス面を克服していくのか。今後の課題になっている。
 離れているため、連絡、連携が密にとれていない。教育委員会と首長部局で建物が異なり、物理的に連携が取りにくい。社会教育係務場所が役場内になく、公民館内にあるため、首長部局の情報が入りにくく、首長部局とのコミュニケーションが取りづらい。首長部局において、社会教育の意味や社会教育が果たす役割を認識している職員が少ない。事業の実施において、職員の社会教育に関するスキルに差があるため、教育委員会部局が主導となる恐れがある。

  社会教育主事の配置についてどのような課題がありますかという問いでは、職員のサイクルが短いことをあげている。

 社会教育主事研修で市職員の育成を図るが、異動が 3 年サイクルが多く、業務に生かしにくい。有資格者が年々減っており、引き継ぎ者が少なく配置が難しい状況がある。
 また、困難性として、財政的に運営費の問題もあげている。社会教育主事に係る国からの交付税措置が年々減少し、県及び市町の負担が増加している。県内の大学での社会教育主事講習が実施されなくなったことから、受講者が減っており、人材確保に苦慮している。
 社会教育にかかわる職員の年齢問題も困難性としてあげている。社教主事を発令する年齢も高年齢化している状況にある。社会教育主事の有資格者が退職する一方で、新規の有資格者の育成が進まないこと。新規に資格取得した職員が首長部局に異動してしまうこと。
 また近年社会教育施設の建替え、改修業務が増え、元来少ない社会教育主事が、社会教育のソフト面充実に割ける労力が残っていないという実情がある。
社会教育主事は専門性を有する職種であると思うが、首長部局の認識が低く、短期間の配置で人事異動されてしまうことにより、社会教育行政が停滞してしまうことが懸念される。

    社会教育主事に直接にアンケートした回答では、まず、 社会教育主事の主な勤務場所についてである。本庁(教育委員会等)238、64%  公民館等社会教育施設, 108, 29%である。

 社会教育主事の資格は、どのような方法で取得しましたかは、社会教育主事養成課程(大学在学中に取得), 78, 21%、社会教育主事講習,282, 75%


 社会教育主事になる以前の前職は、学校の教職員524名,行政職員(教育委員会)162名,行政職員(首長部局)129名、公民館等社会教育施設75名,その他64名である。
 
 勤務を通して感じた社会教育主事の意義や役割は、どのようなものか。 

 地域の多様な人材が学習成果を生かして活躍できる場の設定をしたり、社会教育実践や地域づくりに携わる各種団体や組織のネットワーク化を図ったり、生涯学習を振興する施設機関の支援をしたりすること。
 地域の中のつながりや地域と学校のつながりをつくる支援を要する役目、社会教育に関わっている人や団体に対しての効果的な指導・助言を行う役目。団体と団体、事業と事業、施設と施設等をつなぐ。
 市町村や公民館等多様な活動が推進できるようにする。小学校教員の経験を生かした学校支援の充実や家庭教育支援の充実。学校とのつながりを意識した放課後・土曜日等支援、学校と公民館活動の連携・協働。市町村や公民館への有効な情報提供。状況やニーズに合った施策の推進(中高生の出番作り、就学前の子どもを対象にした事業等)。市町村や公民館のニーズに合った情報提供(相談の場を設定)。市町村教育委員会での生涯学習・社会教育課と学校教育課の連携・協働。地域社会における生涯学習普及の担い手として、学校以外で社会教育活動をする団体・個人などの支援を行うとともに、生涯学習機会の場の提供。

  勤務を通して感じた社会教育主事の課題は何にかの問いでは。 

    学校教育・家庭教育関係者との積極的な連携により、地域の教育力の向上に役割を果たすこと。防災、男女共同参画、青少年の健全育成など複数の行政分野にまたがる施策において教育の視点を持って各部局との連携のもと振興・推進を展開していくこと。住民のニーズを把握し、必要な学習機会を提供する難しさ。
 社会教育主事有資格者はほとんどが、公民館に配属されたのちに長くいるからという理由で研修を受け、取得したものである。大学での資格取得者に比べ知識が足らないように感じている。
 地域課題を的確に把握し、まちづくりの方針を踏まえた、教育委員会としての社会教育方針を打ち出していくこと。また、地域現場を十分に理解し、そこで働く公民館等社会教育関係職員の成長を促す研修の機会をつくり出すこと。
 学校教育と社会教育との連携・協働を図ろうとするが、学校教育主管課との連携・協力には課題があり、また、学校教育現場との意識の格差がある。
 共働き世帯の増加、少子高齢化といった社会的変化から、地域とのつながりや地元意識が希薄化してきている。このような社会情勢の中で、関心や関わりが、自分や自分の身近な人々など、範囲が狭くなってきており、地域にある力を見出し、地域に活かすということが難しくなっていることが課題の一つと言える。人事施策上、専門職として認識されておらず、職員のキャリアパスとして考えにくい。
 また、地域社会のなかでの認知度も低く、いわゆるコーディネーター程度としてしかとらえられていないし、その程度の業務にとどまっていると思う。専門性の理解が低く軽視されているため、意見等を行政に活かすことができない。行政職の中では、本人の希望の有無にかかわらず異動があり、任用資格のため発令されない場合もある。講習等で取得しても、生かす場面が少ないまま異動し、異動先でその専門性を生かせるかどうかはわからない。学校現場では、校務等の仕事に追われ社会教育主事の専門性を生かせる場面がすくない。
 全国各地において、地方創生、地域創生が声高に言われ、地域間競争、自治体間競争が起きているとも言われる今日ではあるが、社会教育主事としては、じっくりと地域の姿をとらえ、地域の実情に応じて突発的、時限的なものでなく、地域の活性化や心豊かな人づくりに向け協働するための継続的なサポートが必要であると感じている。
 社会教育主事というものがあまり認知されていないと感じるため、日常の業務や研修をとおして、社会教育主事として指導・助言できるだけの知識や経験を増やし、認知されるようにしていく必要があると思う。
 社会教育の範囲は広く、ともするとオールラウンドプレーヤーであることを求められるが、その中で、自らの軸となる専門分野を持つことにより、多岐にわたる要望にも応えることができるのではないかと実感している。
 社会教育主事の「固有」の「具体的」な専門性や役割がはっきりとしない(一般行政職員や公民館主事等との職務の違いが不明確)中では、向上させるスキル・能力も明確にはならず、研修での学びの成果を実際の職務に結びつけることも困難である。
 
 これらの社会教育主事の生の意見をどうとらえていくのか。それぞれの社会教育主事が課題とげていることをどう解決していくのか。この問題に真正面に向かってこそ、「学びをとおしての地域づくり」の実践活動も豊かに実っていくものとみられるのである。