社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

厚生労働省の社会的養育ビジョンの疑問

 

 

 

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 厚生労働省が新しい社会的養育ビジョンとして、7年以内に里親委託率75%の目標、未就学児の施設の原則的停止として、日本が伝統的に築いてきた社会的養護施設の役割を大きく縮小している施策を出していることを宮崎県の木城町にある石井十次念友愛園に訪問したときに、小嶋草次郎理事長から知らされました。

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 不勉強で児童福祉法が2016年度に改正されたことも知りませんでした。この改正によって、家庭養育の優先を明記したというのです。児童虐待を受けている場合は、その養育をできるだけ里親制度ということで代替家庭でという方向になったというのです。

 児童の虐待されてということで、問題が深刻化するなかで、このような社会的養育ビジョンでいいのかという疑問は大きく持ちました。帰って、社会的養育がどうなっているのか、また、児童福祉法の改正問題、厚生労働省の新たな社会的養育のあり方に関する検討会の報告書を読みました。

 児童福祉法の改正は、児童の権利条約にのっとり適切に養育されるということで、家庭と同様の環境における養育の推進ということで、養子縁組による家庭、里親家庭、ファミリホームを重点化したことです。里親委託の推進では、普及啓発から選定および里親と児童との間の調整という里親支援を児童福祉の業務として位置づけ、包括的な里親支援事業の強化をうちだしていることです。そして、専門的ケアを要する場合は「できる限り良好な家庭的養育環境」を提供し、短期の入所が原則としたことです。

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 2017年8月2日の新しいビジョンの検討会は、代替養育は一時的な解決であり、家庭復帰、親族との同居、養子縁組の永続的解決を目的とした対応を求めています。代替養育措置はなくなる必要があるとして、養子縁組は永続的解決を保障する重要な選択肢とみています。

 代替養育からの永続的な解決を見据えたソーシャルワークも大切としているのです。代替養育のあり方は、家庭における養育環境と同様の養育環境であり、できる限り良好な家庭環境です。それは、生活基盤をもち、安心して生活でき、良好な人間関係による心の安全基地としての機能をもっていることです。

 発育及び心身の発達を保障する機能をもって、病んだ心身の癒やしと回復をもち、トラウマ体験や分離・喪失体験からの回復機能をもっていることが求められているというのです。厚生労働省のビジョンからみれば、これらの家庭的機能をもった里親や養子縁組が求められているというのです。

 これらの機能を実現できる養子ができることは理想です。しかし、実際にどれほどみつかるかということが大きなです。それを十分に人員の配置保障がないなかで、制度として児童福祉の業務として、ソーシャルワーカーに求めるのも大変なことであるとしています。

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 社会的に組織的に良好ある家庭環境を求めていくのは、社会的養育・養護施設の内容が必要です。社会的養育・養護の内容の検討から良好ある家庭環境の創出の充実が今、もっとも求められているのではないか。大規模なユニットではなく、家庭的ユニットと家庭的な職員と専門員を配置した施設の充実がもとめらていると思うのです。

 児童虐待を受けた子どもたちは、専門的なこころのケアや基礎学力の充実も求められているのです。施設から里親と単純にはいかないのです。虐待やいじめが原因で集団行為への不適応、自傷行為、ことばがでない子どもを救うのは、専門的な教育wおもったひとが必要なのです。

 全国児童養護問題研究会は、2017年9月4日に新しい社会的養育ビジョンに対する意見を出しています。そこでは、社会的養護の多様な選択が必要ということで、施設か里親かの問題ではないとしています。日本の社会的養護が果たしているのは、施設が大きいとしています。

 親族里親は、私的活動として行われてきた。日本における社会的養護の歴史は、施設が大きな役割をはたしてきました。その現実をしっかりみるべきです。全国児童養護問題研究会では、現実の実践的や日本の歴史経験から家庭環境でなければ愛着関係を築けないということではないとしています。施設養護でも愛着関係を築いてきた豊富な実践はあるとしているのです。

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 日本の児童養護施設で、大きな舎で家庭的な機能を無視しているところも現実には存在するのです。また、養護のなかでいじめが日常的に起きて、子どもの人権が奪われているとこもあります。そのことをもって養護施設の否定ということにならないのです。社会的養護施設で子どもの愛着関係を、子どもたちが健やかに未来にむけて育っている現実があるのです。

 子どもの貧困問題に取り組み、貧困と子どもの発達を教育学的に研究したモンテッソーリは、大人の生活問題に子どもは大きく規定されているとしています。貧民の子どもは、大人の自暴自棄のなかで暮らし、野蛮と悪徳のなかで育っているとしています。貧しい恵まれない子どもたちには、発達を保障するために子どもの家をモンテッソーリーはつくったのです。

 そこで、子どもへの愛情によって、子どもたちは自己実現できることを発見しているのです。ここでの愛情は、怒りや悲しみ、快楽という感覚的な感情ではなく、知性を伴った人間的に子どもを熟視しながらのであります。豊かな情操と他の人を思いやり共有していく感覚をつくりあげていくということです。大人の子どもに対する愛着は、このような人間的によって、心が豊かになっていくのです。

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 子どもの権利条約児童の権利に関する条約)では、子どもの最善の利益の尊重として、子どもの権利を明確にしたのです。この原則は、親の指導の尊重、親からの分離禁止原則親の第一義的養育責任を有する場合でも、その前提条件になるのです。従って、親からの分離禁止原則(9条)においても司法審査において、その分離が児童の最善の利益であると決定した場合はこの限りではないとしています。
 子どもの権利条約の19条では、親等による虐待・放任・搾取からの保護がうたわれています。つまり、あらゆる形態の身体的もしくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠惰な取り扱い、不当な取り扱い又は搾取からの児童の保護を立法上、行政上、社会的上及び教育上の措置をつると条約で義務づけられているのです。

 そして、20条では、家庭環境を奪われた子どもの養護として、児童の最善の利益にかんがみ国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有するとして、里親委託、養子縁組、施設の収容という児童のための代替的な監護を確保することを求めているのです。この際に、養育の継続性と児童の種族的、宗教的、文化的及び言語的背景を考慮しなければならなういことを義務づけているのです。
 さらに、39条では、犠牲になった子どもの心身の回復と社会復帰をうたっているのです。被害者である児童の身体的及び心理的な回復及び社会復帰を促進するためのすべての適当な措置をとることを求め、このことは、児童の健康、自尊心及び尊厳を育成する環境において実施されることを強調しているのです。