社会教育評論

人間の尊厳、自由、民主的社会主義と共生・循環性を求める社会教育評論です。

協同組合原則と社会教育

 協同組合原則と社会教育ー国際協同連盟(ICA)百周年記念・1995年マンチェスター総会採択についての社会教育視点からの感想
        神田 嘉延

協同組合の世界的な高まり

 世界的に地域社会の持続可能な発展のために、協同組合の役割が注目されています。現代の弱肉強食の競争社会は、経済的な市場ばかりではなく、教育の世界でもはびこり、歪められた立身出世主義によって子ども・青年達の人間的な疎外が深刻になっています。人類史は、協同と共生の社会、持続可能性を探究する新たな大変革を求めているのです。
 国際協同組合連盟(ICA)は、100周年記念を1995年にマンチェスターで開かれ、ICAアイデンティティ声明と宣言を採択されました。この採択は、世界の一握りの経済力のいっそうの集中、巨大な多国籍企業による市場競争激化に立ち向かうために、世界中の人類的課題の根本的社会変革と結びつくために、7つの協同組合原則を採択したのです。

 この7つの原則は、協同組合の側面からの人類史的な未来への輝きを灯したのです。危機のなかで、人類史な展望へ、それぞれの社会的な機関が、自らの社会的な役割を協同と共生、持続可能性という視点から原則を確認していくことは重要なことです。協同組合のみが未来を照らすということは一面的なことはいうまでもありません。しかし、現代のおいて、協同のもつ役割は極めて重要な課題です。

 国家や地方自治体の変革、企業をはじめ民主主義経済のあり方、法による社会の民主主義ルールの確立、そのモラルによる個々の自由なる社会の実現が期待されているのです。弱肉強食の競争社会のなかで、権力者・エリート層のモラルの退廃と個々の人びとの孤立化、人間疎外が進行するなかで、協同の価値が大きく問われているのです。
 
 国際協同組合同盟には、世界95カ国から生協、農協、漁協、森林組合労働者協同組合、住宅協同組合、信用協同組合など、あらゆる分野の284協同組合組織が加盟しています。参加の組合員総数は、10億人を超えます(2015年1月現在)。組合数からみるならば、世界的に巨大になっている協同組合の現実です。


 アイデンティティに関するICA声明では、協同組合の定義を「共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織」としています。そして、協同組合の価値は、「自助、自己責任、民主主義、平等、公正、そして連帯の価値を基礎とする」。

 「協同組合の組合員は、正直、公開、社会的責任、そして他人への配慮という倫理的価値を信条」としています。競争社会のなかで個々人が孤立化していくことを強いられるなかで、連帯や他人への配慮の倫理的価値を大切にしているのです。個人の人間的発展のために、人間的な自由の享受を充実するために、連帯や他人への配慮ができる協同組合を重視したのです。

 協同組合は、組合員の共同出資の所有です。運営は、一人一票制ということで、評決するということで、株式会社のように株数によって決めていくものでありません。資本の持ち数によって経営が左右されるのではなく、組合員の要求という個々の人間の意志によって経営されていくのです。

 組合員は、組織運営に参加していくといことです。参加民主主義が協同組合そのものの定義であるのです。そして、協同組合の管理運営は、組合員の共通のニーズを実現するために、組合員が自発的に手を結んだ自治組織であるのです。協同組合は、人びとの自由の意志によって結ばれた組織なのです。

 協同組合は自己責任、自助ということの基礎に、民主主義、平等、公正、連帯があるのです。協同組合の倫理的価値は、正直、公開、社会的責任、他人への配慮を信条とするのです。。市場に対応していくときに、民主主義と平等、公正と連帯が求められているのです。資本主義的な弱肉強食ではなく、他人への配慮という連帯が協同組合に不可欠になっているのです。

 協同組合の7つの原則

 第1原則 自発的で開かれた組合員制

「協同組合は、自発的な組織であり、性による差別、社会的、人種的、政治的、宗教的な差別を行わない。協同組合は、そのサービスを利用することができ、組合員としての責任を受け入れる意志のあるすべての人々に開かれている」

 協同組合はあらゆる差別を行なわないということで、人権の尊重を組織の原則としているのです。組合員になる意志のあるすべての人々に開かれているということです。日本でも国際化が進み、地域で様々な人種や宗教をもった人々が住むようになっています。

 また、農村の住民が都市に、都市の住民が農村にと、人口の移動も活発になり、新たな異文化をもった人々の交流、地域の自治活動も難しい状況も生まれています。このようななかで、地域で暮らし人々が消費協同組合、医療生活協同組合住宅生活協同組合など共同の生活要求で自治的にまとまっていくことは、人々の開かれた社会と自治をつくりあげていくうえで、大切になっています。協同組合の組織化は、社会の差別を克服していくうえでも重要なことです。

 第2原則 組合員による民主的管理

 「協同組合は、組合員が管理する民主的な組織であり、組合員は、その政策立案と意志決定に積極的に参加する。選出された役員として活動する男女は、すべての組合員に対して責任を負う。単位協同組合の段階では、組合員は平等の議決(1人1票)をもっている。他の段階の協同組合も、民主的方法によって組織される」。

 協同組合は、一人ひとりの組合員が積極的に政策立案と意志決定に参加していくことの大切さをあげています。参加民主主義を原則としているのです。それぞれの協同組合の組織で、どのように参加民主主義を実現していくのかという方法論も見いだしていく課題もあるのです。

 とくに、協同組合の組織が大きくなり、理事会などの役員、運営委員、組織部などの専従職員の充実などきめのこまかい参加民主主義の組織運営が求められているのです。この際に、専従者も含めての役員のリーダーシップの役割があることを見落としてはならないのです。組合員の代表としての役員と、協同組合の事業を実際に担っていく専従の職員との関係はとりわけ重要な意味をもっていくのです。事業が大きくなって、活動も多様になっていけば、協同組合の職員を増えていくのです。

 第3原則 組合員の経済的参加

「組合員は、協同組合に公正に出資し、その資本を民主的に管理する。少なくともその資本の一部は、通常、協同組合も協同の財産とする。組合員は、組合員になる条件として払い込まれた出資金に対して、利子がある場合でも、通常、制限された利率で受け取る。組合員は、剰余金を次のいずれか、またはすべての目的のために配分する。
 準備金を積み立てて、協同組合の発展に資するためーその準備の少なくとも一部は分割不可能なものとする。ー協同組合の利用高に応じて組合員に還元するため。
 組合員の承認により他の活動を支援するために」。

 協同組合の事業は、経済活動でもあり、協同組合資本として市場に対応しているのです。資本主義的な弱肉強食の市場競争のなかでは、それに巻き込まれていくのです。このような厳しい市場競争の状況のなかで組合員の民主的な管理による経済参加の問題があるのです。

第4原則 自治と自立

 「協同組合は、組合員が管理する自治的な組織である。協同組合は、政府を含む他の組織と取り決めを行う場合は、または外部から資本を調達する場合には、組合員による民主的な管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとで行う」。

 政府や他の組織との取り決めの関係で、協同組合の自治と自立が守られているのかということです。協同組合の関連法は、協同組合の社会的、地域な役割を政府が法的に整備していくことです。労働者協同組合のように法的に整備されていない場合もあり、現代の日本においても国会としての協同組合の法的な整備は重要な課題となっています。

 労働者協同組合は、働くものが共同出資して、仕事を起こしていくということで、新たな協同組合の方法での雇用づくりとして注目されていることです。っこでは、資本の利益第一主義の立場からではなく、福祉や環境等の社会的に有用を優先させての労働者の個々の働き甲斐をもっての起業起こしです。
 協同組合が外部から資本を調達する場合は、組織の自治性失わない民主的な管理の保証が大切としているのです。

第5原則 教育、研修および広報

 「協同組合は、組合員、選出された役員、マネジャー、職員がその発展に効果的に貢献できるように、教育と研修を実施する。
 協同組合は、一般の人びと、特に若い人びとやオピニオンリーダーに、協同することの本質と利点を知らせる」。

 協同組合の教育活動では、組織内の教育や研修ばかりではなく、一般の人びと、とくに若い人びと、オピニオンリーダーに協同の本質と利点を知らせる教育活動を求めているのです。若い人びとに協同の本質と利点の学びを協同組合が重視していくことは、協同組合の社会変革性という未来社会を求めていくことからです。それは、協同組合の学習ばかりではなく、弱肉強食の資本主義的な競争社会のなかで、孤立化していくことではなく、社会連帯や他人を配慮する人間的な絆の協同の本質や利点を学ぶことを提起しているのです。その協同の学びに協同組合が先頭をきっているということなのです。 
 組織内の教育や研修は、どの組織も企業も実施していますが、協同組合は市場をとおしての社会的責任、社会的貢献を特別に重視していく非営利の組織ということから、一般の人びとに協同の本質や利点を理解してもらうための教育活動を特別に提起しているのです。
 一部の経済力を集中していく多国籍企業の利益至上主義による弱肉強食の競争社会のなかで、人間が孤立していく現実の社会があります。競争社会に生きる教育なのか、協同の教育なのかと、鋭く問われる現代です。連帯や他人に配慮する人間的成長をめざす協同の本質や利点は、人間として開花していく自由、共生と民主主義の社会の実現に重要な課題です。それは、公民館等の社会教育機関や学校教育においても積極的に展開していくことが必要になっているのです。社会教育機関と学校教育に、協同組合のリーダー等の派遣も大切になっているのです。

 協同組合は、公的なサービスが社会的に大きな役割を果たしてきたことも教育的にも重視することが必要です。協同の本質や利点は、公的なサービスの提供でも大きな位置をもっているのです。公務員の仕事の市民への協同へのサービスの役割は協同組合運動によって軽減されるものでは決してないのです。協同組合と国家、地方自治体との関係と役割の違いを明確にしていくことが、協同の本質や利点の教育においても大切なことなのです。

第6原則 協同組合間の協同

「協同組合は、地域的、全国的、国を越えた広域的、国際的な組織をつうじて協同することにより、組合員にもっとも効果的にサービスを提供し、協同組合運動を強化する」。

 地域の持続可能性をつくっていくためには、単独の協同組合ではなく、地域間の協同組合の連携が大切です。地域の民主主義、地域の自治の発展にも地域の協同組合の連携が不可欠です。ここには、地域自治ということから、地方公共団体自治体との連携をしていく課題もあります。いうまでもなく、地方自治体は行政の側面をもっており、協同組合間の協同とは別の側面もあります。

 国のレベルの協同では、2018年4月1日に日本協同組合連携機構(JCA)の設立がされました。農林水産業・購買・金融・共済・就労創出・福祉・医療・旅行・住宅などの代表者が集まり結成したものです。「協同組合が地域で果たす役割・機能の可能性を協同組合セクター自らが広げるために、新たな連携組織へ移行することとなりました」。
 協同組合間の連携で“持続可能な地域のよりよいくらし・仕事づくり”に取り組むことを力強く宣言したのでした。連携組織は、全国6,500万人にのぼる組合員です。協同組合の力を結集してコミュニティの再生、高齢者のための仕事おこし、子どもの居場所づくり等、身近な社会問題の解決に努めていくとしたのです。

第7原則 地域社会への関与
 
「協同組合は、組合員が承認する政策にしたがって、地域社会の持続可能な発展のために活動する」。
 地域社会の持続可能な発展は、グローバル化した弱肉強食の市場競争のなかで、益々重要性を帯びてきています。世界全体が冨の蓄積が一部の多国籍企業、富豪に集積し、大多数の貧困化がみられるのです。また、弱肉強食の競争主義は、生産力第一主義で地域の生活や地域の循環的な自然を破壊しています。個々人の孤立化による人間疎外も深刻になり、個人欲望の肥大化による権力者・エリート層の退廃も蔓延しているのです。
 長期的な視野から循環的社会や、持続可能性をもたない目先の利益重視によって、環境問題も深刻になています。経済の発展は、地域社会の持続可能性をもって進められべきを求められているのです。ここには、科学・技術の発展のあり方も生産力第一主義的な開発ではなく、地域社会や自然の持続可能性が必要なのです。
  貧困化は、地域の破壊となって持続可能な発展と逆のコースをたどっています。とくに、発展途上国農山漁村の地域は、その問題が深刻になっているのです。協同組合は、この問題に真正面に向き合うことが協同組合の原則としたのです。
  2017年11月13日~17日にかけて、国際協同組合同盟総会が、マレーシアのクアラルンプールで開催されました。総会には66カ国・1,800人以上の協同組合関係者、政府関係者が参加しました。総会で、「協同組合はを開発の中心に置く」をテーマに、国連が掲げた「持続可能な開発目標」の実現に協同組合が果たせる可能性について報告や討議がされたのです。

 日本協同組合学会訳編「21世紀の協同組合原則」日本評論社を参照